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藤本が明日の資料を自宅に届けてくれたから、それを夜遅くに自室で目を通していた。

牧野は俺の隣に部屋を作らせたけど今日も俺の部屋にいて、昨日と同じように俺のベッドに潜り込んでた。
シャワーも済ませて部屋着に着替えて、スッピンの牧野がすぐ側にいる。

それだけですごく安心できた。あのアパートに残さなくて良かった・・・もし、残してきたらどうなっていただろう。
それを考え始めると資料なんて眼で追うだけでちっとも頭には入らなかったけどね。

牧野はベッドの布団から顔だけ出してずっと俺の方を見ている。それには随分前から気が付いていたけど、知らん顔して資料を読むフリをしていた。覗き見でもなく、隠れるわけでもなく、すごく大きな瞳をそのまま向けてるんだから気が付かないはずないって!


あぁ!もう無理!あんまりにもその視線が気になって、資料を閉じて俺もベッドに潜り込んだ!

「うわぁっ!ごめんっ!私がジッと見てたから気になった?」
「うん!気になって頭に入んないから止めた!・・・いいんだ。どうせ会社の内部資料だから覚えなくてもいいし」

「でも、藤本さんに怒られるよ?」
「怒らせとけばいいんだよ。あの人、俺を怒ることが仕事みたいなもんだから」

「ごめんなさい・・・ちゃんと寝るからお仕事してもいいよ?」
「こんな夜中に働かせる気なの?それよりもここの方がいい・・・」

別に牧野を抱こうなんて考えたわけじゃなかった。本当にこうして隣にいるだけで今はいい。あんたが自分から過去を捨ててくれるまで待つつもりだから。
それでも牧野は少しだけ身体を固くする。無理もないけど、手だけなら緊張しないかなって思って布団の中で手を探した。

そして、ちょんと当たった牧野の手を少しだけ握ってみた。
そしたら彼女も指先を俺の指に絡ませた・・・もう少しだけ強く握ったら、同じように牧野の手にも力が入った。


これだけでいいよ。まだ、沢山荷物持ってるみたいだから、全部降ろして楽になったら・・・その時はちゃんと抱き締めてあげるね。


暫くしたらすぅーっと寝てしまった牧野。
無防備な顔を俺に向けて、本当に小さな動物みたいに丸くなって寝ている。
そんなに怯えながらあの小さなアパートで寝ていたんだね・・・。些細な物音にも敏感になって、自分の呼吸にさえ震えたんだろうね。

まだうっすらと涙の跡が残っているように見える顔・・・少し腫れてる目の下が明日は目立たないといいね・・・。


そんな牧野の手を握ったまま、その寝息につられるように俺も眠りについた。


*******


朝になって自分のベッドの空いたスペースがやけに冷たいことに気が付いて眼が覚めた。
隣にいるはずの牧野の姿がない・・・ガバッと起き上がって部屋を見回したけど人の気配がしなかった。

「牧野・・・どこにいるの?」

呼んでみたけどどこからも返事がなくて、慌てて隣の部屋を覗いたけど、当然ながらそこにも誰もいなかった。

牧野の鞄がない。それに少しだけ準備していると言った洋服がなくなっていた。
「陽だまり」に仕事に行ったんだろうか。マスターに休むなんて言ってなかったから・・・?

急いで俺もスーツに着替えてダイニングへと向かった。そこにも牧野はいないし、先に食べたような形跡もなかった。
すでに朝食の用意はいつものようにされていたけど、どう見ても1人分だったから。

「加代?牧野を見なかった?ベッドからいなくなったんだけど・・・」

「牧野様ならもう随分前にお世話になりました、とご挨拶されて出て行かれましたわ。類様にはお仕事に行くとお伝え下さいとのことでしたけど・・・ご存じなかったのですか?」

「昨日はそんな話しなかったから・・・彼女の店に行ってみる。ありがとう、加代。車の用意をさせておいて!」
「やれやれ、朝から慌ただしいこと!畏まりましたわ」


やっぱり仕事に行ったんだ!
一言ぐらい言ってくれてもいいのに・・・俺が爆睡していたから起こさなかったのかな。
会議資料だけ手に持って急いで車に乗り込んだ。「陽だまり」はもう開店している。牧野は1人であの寒い店内を掃除しているんだろうか・・・今日みたいな気分の時もそこからは逃げなかったんだね?

彼女の意外な強さに驚きを感じながら・・・もう一つは近くに住んでいる亮の行動が気になって車の中で爪を噛んだ。

**

車は「陽だまり」に着いた。
運転手に声すらかけずに急いで車を降りると、いつもは静かに開けるこのドアを思いっきり両手で押し開けた!
中には数人、モーニングの客が来ていて、牧野はいつものように1人でその接客をしていた。

「イラッシャイマセ!イラッシャイマセ!」

そういちろうが激しく鳴いているのに声もかけずに牧野の側に行くと、ニコッといつものように笑った。

「おはようございます!いらっしゃいませ・・・いつものでいいですか?」
「牧野・・・どういうつもりなの?どうして黙って出て行ったの!」

「お客様・・・ここは店内です。少しお静かに・・・ね?座って下さい。今日はカウンターにしますか?」

他の客の目が気になるのか牧野は俺をカウンター席の1番奥に案内した。
そして苦笑いでおしぼりと水をくれて、コーヒーの準備をする。いつものバゲットサンドも手際よく作り始めたけど、今の俺はそんなものを口にするほど気持ちに余裕がなかった。


「つくしちゃん、ご馳走様!いくらだっけ?」
「はーい!650円です。行ってらっしゃい!お仕事頑張って下さいね!」

店内にいた客が出て行って、やっと2人になった時、俺は椅子から飛び出して牧野の側に行くと、怒ろうと思っていたのに自然とその身体を抱き締めていた。洗っていた皿をそこのテーブルに置いて、牧野の手も俺を包んでくれた。

「類・・・ごめんね、黙っていったから心配してくれたの?」
「当たり前でしょ・・・ホントにもう!心臓が止まるかと思った・・・起こしてくれたら良かったのに!」

「クスッ・・・だってすごく気持ちよさそうに寝ていたからよ。子供みたいにさ・・・」
「隣に牧野がいるって思ってるからでしょ。起きたらいきなりベッドが冷たくてさ、びっくりしたよ」

「ご機嫌直して朝ご飯食べてよ。今日は類の好きなお昼ご飯も準備したんだよ?プレーンオムレツのバゲットサンド!藤本さんにもあげてね?一緒に入れておくから。さぁ、どうぞ!」

カウンター席で牧野と向かい合わせで朝はいつものスモークチキンのサンドを食べた。牧野も小さいサンドイッチを作って隠れて食べて、マスターには内緒よ?って戯けて見せていた。


「牧野、お願いがあるんだけど、きいてくれない?」

「なあに?」

「この店・・・今日で辞めて欲しいんだ。仕事は俺が探すから。頼む・・・この場所には帰せないんだ」


「・・・・・・わかったわ。類の言うとおりにするね」

ほんの少しだけ間を開けて牧野は答えた。
だけどその時に俺の眼を見ようとはしなかった。何故だろう・・・すごく不安だった。
俺に背中を向けて洗い物を始めたから、その姿を横目で見ながらそういちろうの所に行った。

「おはよう、そういちろう・・・さっきはごめんね。急いでいたからさ」

「ソウイチロウ、マッテタヨ、ソウイチロウ・・・スキダヨ!」

「あはは!新しい言葉を覚えたんだね?うん!俺もそういちろうが好きだよ。また夕方来るからね!」


今日は4時を過ぎてもここに残っておくようにと約束して俺は会社に向かった。
手の中には牧野のくれたバゲットサンドをいくつも持って、何処かに何かが引っ掛かっているような感覚を持ったまま花沢への道を歩いていた。



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2017/11/29 (Wed) 06:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様~!おはようございます!

そうですよね、よくいなくなる人だから(笑)
類くん、無茶苦茶甘々ですよね~!私、書いてて照れちゃう!
もう少し男っぽく書けばいいのに、すっごく中性的になってしまってる(笑)

で、これから・・・ですよね!
亮とつくしちゃんの秘密が出てくるのですよ。

ありゃ?もう20話・・・やっぱり長くなってる!

その後いかがですか?
私は昨日、会社の机の横の引き出しを開けたまま、立ち上がって向き変えて
その引き出しに太腿をぶつけて・・・痛かった~!
引き出しの角がモロ足に食い込んでね!夜見たら内出血してるの。
若い子に「お母さん(あだ名です)何やってんの?」って馬鹿にされ・・・。

原因がわかってる痣はまだいいのよ。時々わからないのに痣が出来てること、ないですか?(笑)

2017/11/29 (Wed) 09:14 | EDIT | REPLY |   
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2017/11/29 (Wed) 13:19 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

あはは!どうでしょうねぇ!
でもお話しが変な方向に向いてるのにそういちろうと藤本がいるから暗くないでしょ?

で、誰がその言葉をそういちろうに教えるの(笑)
それ普通に話したらそういちろう、インコじゃなくなる!

うちの実家のセキセイインコはお喋りするんですが、覚えた言葉が怖いんですよ。

「キキちゃん、マッテタヨ」
「キキちゃん、オナカスイタ」
「キキちゃん、デンワシタ?」
「キキちゃん、トシトッタ?」
「キキちゃん、イキテル?」

キキちゃんはどうも私の母を「キキちゃん」だと思っているらしいんですが
電話した?まではいいんだけど、年取った?と生きてる?・・・は流石に母も気分が悪いらしいです。

2017/11/29 (Wed) 20:06 | EDIT | REPLY |   
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2017/11/29 (Wed) 21:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

あはは!これはですね、教えたのは多分私です。
母って言うのは私の母ですけど、家に行ったときに「元気にしてる?」っていう意味で「生きてる~?」
って聞いていたんですよ。それを覚えたようです。
「年取った」は母が何かする度に「年取ったよね~」って言うから覚えたみたい。

「エロ門さん」・・・どういうときにそれをインコに言うんでしょうか?
想像して下さい。インコに真剣な顔で「エロ門さん、エロ門さん」って言うところ。(゚ロ゚屮)屮

それだけでも怖いのに、ホントに覚えたらもっと怖いわ~!

「エロカドサン、ダイテ?」とかまで言えたら面白いのにねぇっ!・・・って母が聞くんですけどね。

2017/11/29 (Wed) 23:35 | EDIT | REPLY |   

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