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plumeria

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アランというパティスリーにいた男が俺を睨みつけて、泣き出しそうな牧野を自分の後ろ側に隠した。そしてプロポーズをしただなんて言い出した。

もしかしてこの前泣いて出てきたのはこのせい?この男に何か言われたんだろうか。
だけど、あの時の牧野は嬉しそうじゃなかった。むしろ困っていたんだ。それを考えたらこの話はこいつが無理を言ってるとしか思えなかった。


でも、牧野ももう俺とは話すことがない・・・って言った。わかりやすい嘘だよね。でも、俺は諦めるつもりはなかった。

「わかった。今日はこれで帰るね。コートとマフラー・・・あと鞄、持ってきたから。一つだけお願い聞いてくれる?」
「・・・・・・」

「俺の目の前でその男と何処かに行かないでくれる?ちゃんと部屋に入るところを見届けたらここから立ち去る。お願いだからこれを取りに来て?」

そう言うと眼に涙をいっぱい溜めた牧野がゆっくりと俺の方にやってきた。アランは今にも俺に殴りかかりたいってぐらい顔を険しくさせていたけど一歩も動くことはなかった。

なんて顔してるの?歯なんて食いしばらなくていいんだよ?そんなの似合わないのに・・・涙なんて流さなくてもいいのに。


「はい、これ・・・寒いからちゃんと毎日マフラーしてね。それと、もう話すことはないって言ってたけど、俺は話したいことまだ沢山あるんだ。多分一生牧野に話を聞いてもらいたいって思ってる。だから、クリスマスイブの夜、自宅で待ってるから」

「えっ・・・類、でも」
「いいんだよ。牧野の考えてることぐらいわかるから。はい・・・もう、お帰り」

マフラーだけ首にかけたらそれを思いっきり握り締めて、堪えきれなかった涙が頬を伝ってマフラーに染み込んだ。そしても何も言わずにコートを手に持ってアパートの階段を上がっていった。一度も振り返らないで・・・。

俺はそれをジッと見ていた。小さな背中を黙って見ていた。
暫くしたら牧野の部屋に電気がついて、カーテンの隙間から牧野が顔を出してる。

その視線、ほら・・・アランなんかじゃなくて俺の方だよ?ホントに意地っ張りだね。
そしてカーテンは閉められた。


「ハナザワさん、俺は本気だけどあんたはどうなんだ?あんたのような一流企業の人間が、ツクシのようなケーキ職人を目指している女性を受け入れるのか?それこそ苦労するのは彼女だろう」

「苦労?そんなものさせるつもりなんてこれっぽっちもないけど。それにケーキ職人って恥ずかしい職業じゃない・・・どこか問題あるの?あるとしたら決めつけてしまう回りの人間だ。それに、あんたも自分の仕事にプライドって持ってるだろ?」

まだ何か言いたそうなアランのことはもう放っておいて俺は向きを変えた。
クリスマスイブ、牧野は必ず来てくれる。それだけを信じて待つことにするよ・・・少しだけど自信、あるんだ。


**********

<side花沢夫人>
2階の厨房で類が大声を出すのを聞いた。あの子があんなに騒ぐだなんて・・・びっくりしてそこに向かったけど、ちょうど誰かを追いかけて出て行くところを見てしまった。

「あら・・・喧嘩でもしたのかしら。あの類が?信じられないわ」

厨房のドアも開けっ放し・・・あんなに動揺するなんて何があったんだろう。牧野さんが来ていて何かを作ってるって聞いたのに、まさか飛び出していったのは彼女なの?でも、類が怒らせるような事を言うとは思えなかった。
首を傾げながら厨房に入ったら、もうそこには誰もいなかった。でも、つい今まで誰かがここにいて何かを作っていたんだろうと思わせるほど散らかったままで片付けられていない。

倒れたままの椅子・・・何かがここであったのかしら。まさか、類がこんなところで牧野さんを?
ちょっと嫌な想像をしたけど、そんな事はあの子に限ってないだろうと頭を振った。


「あら?・・・このケーキ、なにかしら?クリスマスケーキ?」

テーブルの上に二つほど作りたてのケーキが並べて置かれていた。
もしかして牧野さんが作ったのかしら?フランスのケーキはもっとカラフルで派手でゴテゴテしてるのに、なんてこのケーキは可愛いんだろう!
私は急いでうちのシェフの高木を呼んだ。このケーキの説明を聞こうと思ったから。


「お呼びでしょうか、奥様」
「ねぇ、高木・・・このケーキは何か知ってる?ここに置いてあったの。牧野さんって子が作ったのかしら?」

「あぁ、完成させたのですね?うんうん、よく出来てるじゃないですか!これは牧野さんが考えたレシピなんですよ。この緑色は小松菜ですからねぇ。中々面白い子ですね、うちに欲しいぐらいですよ」

「・・・忘れていったのかしら。高木、試食してみない?」
「え?本人がいないのにですか?いいんでしょうか・・・」

躊躇う高木に私が責任とるからって言ってこのケーキにナイフを入れた。切ったあとの中の色合いも綺麗・・・。
そしてほんの少しカットして2人で味見をした。それがとても美味しくて驚いたわ。フランスのちょっとこってりしたケーキとは違ってしっとりとしていて甘すぎない。上品でどことなく懐かしい日本の食材の味がした。

「あら!いいんじゃない?ねぇ、高木」
「そうですねぇ!まだ少し修正した方がいいんですが十分お客様に出せますね。ただしフランス人には合わないでしょうね。例えば花沢でやるホームパーティーなどでは喜ばれそうですよ?日本の方が多いですからね」

「本当にそうね!・・・牧野さん、何処に行ったのかしら」

そんな事を高木と話していたら類が戻ってきた。
何だかすごく落ち込んだ顔をして、肩を落としたまま厨房に入ってきた。


「あれ?母さん、何やってるの?」

「あなた、随分血相変えて出て行ったのね。何か起きたのかと思ってここに来たらケーキが置いてあったから試食してたの。
ねぇ、これ牧野さんが作ったの?いいわねって高木と話してたのよ。彼女随分と腕がいいんじゃないの!びっくりしたわ」
「類様、牧野さんはどうされたんでしょう。これは大事な試作品じゃなかったんですか?」


「うん、すごく大事な試作品だったんだけどね・・・慌てんぼだから忘れたんだよ。馬鹿だよね」

彼女が作ったケーキを目の前にして少し悲しそうに笑った類。
あなたも馬鹿な子ねぇ・・・そんな顔するぐらいなら何でも話してくれたらいいのに。


「ねぇ、母さん、俺が日本に帰るとき一緒に連れて帰りたい子がさ、普通の子だったら・・・父さんはどう思うだろうね」

「そうねぇ・・・お父様はともかく、私としては類を大事にしてくれる人ならそれだけで歓迎するわ。たとえお仕事がケーキ職人でも問題なくてよ?」


あら・・・ほんの少し彼女のほうが迷子になってるのね?
それじゃあ、あなたが彼女の心を探しておあげなさい。

私の愛しい類・・・あなたが素敵なクリスマスを迎えられるように祈ってるわ。


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2017/12/22 (Fri) 02:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは~!

意外と冷静な類くんでしょ?ここはつくしちゃんがとことん迷子になっております!
しかし・・・頑張って作ったケーキをつまみ食いするおかん・・・(笑)取りに戻ったらどうする気だったんだ?


私の住んでるところは結構方言がわかりやすいんですよ。意外とテレビでも良く放送されてるかな(笑)

だからたまに書いてても「これ、もしかして方言?」って思うことがあって調べます。

ちなみに私、紅葉饅頭は苦手なんですけど、生紅葉っていうしっとりした紅葉饅頭はすきです!
広島のお菓子で「カープカツ」も好き(笑)
ホントに駄菓子みたいなんですけど、これ、もらうと喜ぶの(笑)

赤福ってあれは愛知?三重?なのかな?
あれを若いときにお土産でいただきまして、感動しました!美味しかったなぁ・・・。

あぁ、脱線してしまった!今日もありがとうございました!

2017/12/22 (Fri) 11:53 | EDIT | REPLY |   

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