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類が会社に向かってから店内はそういちろうさんと2人になって、シーンと静まりかえった。
はぁ・・・って溜息とつくと、そういちろうさんがチラッと私を見る。本当にすごく怖い顔で。でも今日の私はそれに怒る気さえしなかった。

ごめんね・・・やっぱり私はあなたの所にはいけない。
今日でここを辞めることは仕方ないけど、類の所にも行けないの。だからこの街から出て行くしかなさそうね。
類が来る前にここを出て、アパートに帰ったら荷物を纏めて東京を離れよう。亮からも離れよう。もし、「あれ」を使われてももうどうでもいいや・・・この大都会にいなければ誰にも気が付かれないだろうから。

私が目の前からいなくなって、亮も一人になれば生きていくために動き出すかもしれないし。


「そういちろうさん。色々お世話になったわね。ありがとう・・・楽しかったよ。ここにいるときだけが本当に楽しかったよ」

「ソウイチロウ、マッテルヨ。ソウイチロウ、ダイスキ」

「さっきも類に言ってたね!お利口さん!私が毎日”類、大好き”って言ってたの覚えたんでしょ?流石だね!」

「ソウイチロウ、ダイスキ!」

「うん、私も類が大好き!だから・・・さようならするんだよ?」


その時にガチャって裏口で音がして、いつもより早くマスターが店内に入ってきた。いつもと変わらない優しい笑顔で。
でも、マスターは入って来るなり、入り口の「営業中」の札を取ってドアに鍵をかけた。

「おはようございます・・・マスター、どうしたんですか?お店を閉めるんですか?」
「あぁ・・・そうだよ。今日だけじゃなくて、もうこの店を閉店するんだ。つくしちゃん、話があるんだ。少し・・・いいかな」

「閉店?今日だけじゃなくてって・・・何があったんですか?」


営業中の札を寂しそうに見つめながらマスターは私をカウンター席に座らせて、初めて来た時と同じようにコーヒーを入れてくれた。
凄くいい香りがしてコポコポとお湯の沸く音と、ポタポタッとコーヒーが落ちる音が小さな店内に響いた。

「さぁ、出来た。今日は僕も飲もうかな。ここで最後のコーヒーだよ。つくしちゃん、どうぞ」
「ありがとう・・・ございます。あの、何があったんですか?」

一口コーヒーを飲んだマスターが次に言った言葉は、私の心臓を止めてしまうほどの衝撃だった。


「昨日ね、夜に亮と名乗る男が来たんだよ。君の・・・同居人だそうだね」

「え?・・・亮が?な、何を言ったんですか?」


「つくしちゃんがここに来たら、必ず帰って来いって・・・。何かわからないけど、帰らないときはネットに流す、と伝えてくれってね。
随分と酒の匂いをさせてフラフラと歩くのがやっとって感じだったな。そして、つくしちゃんが帰らないときはこの店も潰すってさ。
ははっ・・・随分とおかしな男と暮らしてるんだねぇ」

私はもうコーヒーカップも持つことが出来なかった。
まさかこの店にそんな事を言いに来るなんて思いもしなかった・・・マスターは全然関係ないのに!この店に手を出すなんてとんでもない事を・・・!申し訳なくて両方の手を拳にしてグッと握り絞めた。だけど、それをぶつけるところもなくて唇を噛みしめた。

「それで僕もこの店を閉めて田舎に帰ろうかと思ってね。そういちろうを連れてさ」

「どうしてですか?私のことでこのお店を閉めるんですか?ダメですよ!そんなの・・・私はこのお店を今日で辞めようって思っていたんです!それで解決するでしょう?亮にはこのお店に手出ししないように言います!だから・・・!」

気持ちが高ぶってカウンター席から立ち上がってしまった。そして向かい合ってコーヒーを飲んでいるマスターにそう叫んだ。
だけど、それでもにっこりと笑ってる。マスターからはもう決心したんだってことだけが伝わって来るけど、そんなもの、私には納得できるはずもなかった。


「ここには沢山の常連さんが毎日来るわ・・・疲れたお客さんのためにコーヒー出してあげて下さい・・・私の代わりなんてすぐに見つかるけどお店の代わりなんてすぐには見つからないんですよ?」

「・・・うーん、そうなんだけどね。つくしちゃんの事だけじゃないんだ。前から考えていたからさ」

「・・・前から?」

マスターは「コーヒーが冷めたね」って言って、今度はカフェオレを入れてくれた。もちろん苦手なラテアートなんかはしないけど。


「前に話したと思うけど、ここには妻と子供の思い出が多すぎてさ・・・そういちろうもいつも”待ってる”って言うだろう?あれが辛くてね。そういちろうはもう帰ってこない二人をいつまでも待っているんだよ。昔はもっと色んな言葉を話してたんだけどさ。
だから、いつか田舎に帰って新しい店でそういちろうと暮らそうと思ってたんだよ。そうしたら意外と長続きしたバイトが来てさ。
店が楽しくなってきただろう?いつ、この話を切り出そうかと思ったら、あの男が現われたのさ」

そう話しながら私の前に温かいカフェオレをコトンと置いてくれた。

「だから、君のせいじゃないんだよ。きっかけ・・・にすぎないんだ」


喉の奥が重い・・・何かが詰まってて言葉さえ出てこない。だからカフェオレを一口、コクンと飲んだ。
暖かくて少し甘い・・・幸せな味がした。

「つくしちゃんはどうしてあんな男に捕まってるんだい?恋人じゃないだろう?あの男のためにここで働いていたの?もしそうだとしたら、さっさと離れて彼の所に行ったらいいのに。そういちろうからちゃんと聞いてるんだよ?花沢さんだろう?」

「え?そういちろうさんから?」

「そうそう!そういちろうは君の言葉をちゃんと覚えてるからね。君が帰ったらいつも話していたよ。”類、大好き”ってね!」


うそっ・・・!私の前では一度も言わなかったのに!
さっきだってやっと大好きって言葉を覚えただけだと思っていたのに・・・マスターに告げ口されていたなんて全然知らなかった!
今まですごく沈んでいたのに類の名前を出されると急に顔が赤くなって、慌てて残りのカフェオレをゴクゴクと飲んでしまった。

「ははっ!わかり易いんだね。花沢さんなら相談に乗ってくれるんじゃないのかい?話してみたらいいよ・・・好きな人が近くにいるんなら離れないことだよ?僕みたいにもう会えないんなら仕方ないけどね、君はそうじゃない。よく考えたらいい」


でもね、考えてもどうしようもない事もあるんです。
好きだから知られたくないこともあるんです・・・好きだから、離れた方がいいこともあるんです。


「マスター・・・私も一緒に行っちゃいけませんか?マスターの新しいお店にそういちろうさんと一緒に連れて行ってもらえませんか?私も、もう行くところがないんです。ここを辞めたら、亮とも離れて何処かに行こうって思っていました。でも、行き先なんて全然決めてなかったの・・・。全部お話ししますから」


私はこの後、マスターに類に話したことと同じことを伝えた。そして、類には話せなかったことも・・・全部話した。
全部話したら涙が止まらなくなって、マスターに縋り付いて泣き続けた。


「そうだったの・・・辛かったね。そんな事があったのに毎日明るく頑張ったんだねぇ。・・・可哀相に」

「いいんです。もういいんです・・・だけど、類には知られたくないんです。こんな事!・・・だからここから逃げたいんです」

**

お昼が過ぎてから、マスターとここにある荷物を大急ぎで段ボールに詰め込んで引っ越しの準備をした。
そういちろうさんはそれをお店の隅で見ながら、たまに通り過ぎるドアの前の人影に眼を向けている。

そういちろうさん、最後に類に会いたかったよね?ごめんね・・・その代わり私が毎日遊んであげる。

だから、許してね。そういちろうさん・・・。


許してね、類。


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2017/11/30 (Thu) 00:48 | EDIT | REPLY |   
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2017/11/30 (Thu) 05:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

駆け落ち・・・マスターとって言うよりそういちろうと駆け落ちみたいなもんですかね?
1人で消えると思ったでしょ?たまには団体で逃亡しようかと思いましてね。

ネットに流されて困るものって、まぁ想像出来ますよね~!
どんどん亮が変態になってきたぞ(笑)

エロカドサン、ダイテ・・・ぷっ!母に不倫を心配されるのも嫌ですけど
二次書いてることを知られる方がもっと嫌です(笑)

母に二次小説がわかるかどうかは疑問ですけどね。バレたら・・・私が「イキテナイ」かも?

2017/11/30 (Thu) 10:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様、こんにちは。

やっぱりえみりん様、私の管理画面に入ってるな?(笑)もう!笑ってしまいました!
ダメダメ、そんな面白い想像しちゃ!アラスカはないけどね!

なかなかないでしょ?みんなでどっかに消えちゃうの。ふふふ、驚いていただけてラッキー!
どうやってそういちろうさんと旅するんでしょうねぇ・・・インコって車で移動するのってすごいストレスらしいですよ。

私、まだ子供がいないときに小桜インコ連れて九州一周車で旅行したんですよ。インコがいるからすべて車中泊で。
若かったんでしょうね、その時にとある県で信用金庫の駐車場で寝てたんです。インコと一緒に。
朝起きたら警察車両に囲まれていました(爆笑)

え?その結果?・・・びっくりして無言で発進したら、暫くつけられていましたけどなにも言われませんでした。
多分、車両番号は照会されて、窓から寝顔は見られたんだろうな・・・とは思っています。

2017/11/30 (Thu) 10:16 | EDIT | REPLY |   

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