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「陽だまり」を出てから社の方に向かったけど、さっきの牧野の態度がずっと気になっていた。
少しくらい泣いてくれた方が楽かもしれない。あんな風に強がって笑った顔をみせられても嬉しくない。心の底から笑って欲しくて牧野を花沢に連れて帰ったのに。

そして今日もまた受付近くで待機していた藤本が俺を見つけて走り寄ってきた。
はぁ・・・今日は藤本のノリについていく自信なんて全然ないんだけど!絶対、お構いなしに大声で話しかけてくるよね?

「あっ!専務、おはようございます!昨日の書類ちゃんと読んだんでしょうね?まさかと思いますが彼女と・・・彼女と・・・!」

「朝からなに言ってんのさ、くだらない!はい、これ・・・牧野から藤本にだってさ。昨日のお礼らしいよ。それと、あの件は社には内緒だからね?絶対に父さんと母さんには喋らないように。わかってると思うけど」

「もちろんですよ!あんな事を社長や副社長には言えません!手切れ金に一千万円払っただなんて!」

「・・・ちょっと違う。もういいから口突っ込まないで!サンドイッチでも突っ込んどいて!」

ホントにエレベーターでバゲットサンドを食べてる暢気な藤本を見ながら溜息が出た。
こいつが持っているプレーンオムレツのサンド・・・それを作るときの牧野の悲しそうな表情がどうしても頭から離れなかった。


一体何をそんなに怖がっているんだろう。亮という男に何を掴まれてる?おそらく牧野は何かで脅されているからあいつから逃げられないんだろう。
関係を持ってないんなら何をネタに脅される?考えられる事って限られてくるけど・・・まさかね。

色んな手口を想像したけど、その中のどれをとっても女性には耐えがたいものばかり・・・もし想像どおりならどうやって後始末をするか。相手はゲームのプログラマーだったらしいからそこそこの頭は持っているんだろう。
ああやって酒に溺れていても真剣に何かを考え始めたら俺でも太刀打ちできないかも。”予想外の展開”って方が効果があるかな・・・それなら正面からぶつかった方がいいか!


「専務、何難しい顔してるんですか?考え事ですか?」

「うん、今日の会議の議題についてね。花沢物産の将来のために新しい分野にも手を出していかないといけないだろ?
そのための戦略と構想と・・・人材育成についてね。早いうちに手を打たないと間に合わなくなるからね」

「・・・今日はそんなお題でしたっけ?」
「俺の課題なんだよ!」

そう!花沢物産の将来のためには俺の相手は絶対に必要だし、その彼女を助けるための策を練らないと俺の側からどんどん離れていきそうで・・・そうなると後継者が出来ないかもしれないんだから!早くしないと牧野が変な行動に出そうで不安だった。

会議資料を一生懸命捲ってる藤本。バカじゃないの?そんなこと、何処にも書いてないって!


********


「つくしちゃん、こんなもんでいいだろう。後はここの管理人さんに頼んで処分してもらうよ。どうするんだい?・・・本気なのかい?」

「はい。私こそごめんなさい。自分の行き先はそのうちちゃんと決めますから」

「陽だまり」を出て行ったのは3時半。私はアパートに向かっていた。
昨日、類から連れ出してもらってから亮はどうしただろう。今から部屋に戻ったらまた殴られるかもしれない。でも、それも今日で最後だ・・・少しぐらいは覚悟をしよう。それでこの部屋から出られるならもういい・・・その後のことは・・・もう、どうでもいい。


自由になろう・・・そう思ったの。
類に出会えたからそう思えるようになったんだよ?自由になったらあんなに楽しい事もあるんだって思えたの。


アパートに戻ったけどそこには誰もいなかった。亮は珍しく外出してるんだ。それなら今のうちに!

私は急いで自分の部屋から必要なものだけを大きな鞄に詰め込んだ。服なんて少しあればいい!大事なものなんてここにはほとんどなかったから、荷物を纏めるのに30分もかからなかった。

亮にはメモを残した。

私はこの街を出ていきます。亮が持っているもの・・・使いたかったら使えばいい。
もう私はそれを怖いとは思わない。私は今日から「自由」になる。
さようなら、亮

出会った頃の亮に戻って欲しい。そう願っています。
 


テーブルの上に一枚、これを残してこの部屋の鍵を置いて・・・ガチャンとドアを閉めた。


時間は4時ちょうど。私のバイトの終わる時間だった。

荷物を纏めた鞄を2つだけ、両肩にかけてまた「陽だまり」を目指した。マスターは自分の車で私を待っていてくれるはず。
両手が塞がっているから涙は拭けなかった・・・ぐちゃぐちゃの顔を世間に晒しながら私はいつもの道を違う気分で歩いていた。

もう振り返ることもない。忌まわしいアパートとこれでスッパリ縁を切ったんだ。    


マスターの車には沢山の荷物と一緒にそういちろうさんが助手席の背もたれの上に乗っていた。
白のワンボックスに青と黄色のインコ・・・一見楽しそうに見えちゃうね!

「お待たせしました!そういちろうさん、ごめんね!」
「ソウイチロウ、マッテタヨ!マッテタヨ!」

「あはは!そうなの?でもこれからしばらくは一緒にいるよ?これからも宜しくね、そういちろうさん!」

「行こうか。少し遠いからゆっくりしといてくれ。着くのは明後日かな。・・・フェリーにも乗るからね」


CLOSEの札が風に揺れるのをマスターと二人で見ていた。
お洒落な木のドアに張られた張り紙はマスターが外したのね。私が惹かれたそういちろうさんの張り紙・・・。
可愛いカーテンのかかった窓、温かい雰囲気のドア、落ち着いた色の屋根・・・大好きな類と出会った場所。

さようなら・・・私の「陽だまり」
後で来るだろう類がこれを見てどれだけ怒るだろう・・・それを考えたら、また涙が流れる。


車がゆっくりと動き出した。


**********


その日の夕方、5時に会議が終わった。
藤本に急用があると言って急いで社を出たのは5時15分。この時間、当然「陽だまり」は営業中だから、牧野はそこで待っていてくれるはず・・・マスターに俺から事情を話して彼女を連れて帰ろうと思っていた。

5時30分、「陽だまり」が見える所まで来て、いつもと違う店の様子に気が付いた・・・店の照明がついていない。

いつもなら窓から店内の明かりが漏れて中の様子がわかるはずなのに、店の外を照らすはずの外灯も店の看板も・・・とにかくその周辺になんの明かりも灯されていなかったんだ。
店のドアの前に立つとそこに掛けられていたのは「CLOSE」の文字・・・いや、昨日が定休日のはずだ。今日ちゃんと牧野は朝から働いていたじゃないか!

その札がかかっているにもかかわらず、ドアを叩いてみたけど当然なんの物音もしなかった。急いで裏口に回って小さな通用口を叩いてみたけどやはりなんの反応もない。

おかしい・・・マスターまでこの店を閉めるだなんて。


まさか、牧野はまたあの男の所に戻ったのか?俺との約束を破ってまで、そうまでしてあいつの所に戻ったの?
ドンッ!と大きく通用口を拳で殴りつけた・・・自分の爪が手の平に食い込む痛みと同時に湧き上がった恐怖感。

今度は牧野のアパートまで走って行き、彼女の部屋の窓を見上げた。そこには電気がついてる!誰かがいるんだ・・・!

そこに亮と牧野がいると思うとドクンと大きく心臓が鳴った。俺はこの前と同じように階段を駆け上がって部屋の前に行くとドアノブをゆっくりとまわしてみた。鍵はかかっていない!カチャ・・・と音がしたと同時にドアを勢いよく開けた!

「牧野!いるの?・・・牧野、返事をしろ!」

大声を張り上げたけど、牧野の声はしなかった。
その代わり出てきたのは前と同じ服装の薄汚れた亮・・・そいつだけがふらりと奥から現われた。


「牧野はどうした?ここにはもう返さないって言ったよね」

「はっ!つくしならさっきここを出てったようだぜ?・・・ちょうどいいや、花沢って言ったよな?あんたに買ってもらおうか!」


やっぱりそうだ・・・この男は牧野を脅迫してたってことだ。
じゃあその「現物」を処分するしかないよね。

「いいよ。取引しようか」


牧野は絶対に見つける・・・その前に彼女を苦しめる害虫駆除でもしようか。
薄暗いアパートの一室でニヤリと笑う悪魔と向かい合っていた。


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2017/12/01 (Fri) 07:19 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/01 (Fri) 07:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様~!おはようございます!

えーっ!笑って欲しかったなぁ!(笑)
このちょい暗い場面を明るくしてくれるのに~♥

でも、いつもと違う逃亡で1人じゃないから安心じゃないですか?だめ?
そういちろうがいるから楽しいかもよ?どうします?超明るく生活始めたら・・・。

一億・・・(笑)35億だったら類、出すのかな?(笑)

世界一孤立した有人島?おぉ、調べてみよう!自給自足ってこと?
100円くらいでも誰もくれそうにないですね!
でも、もっと怖い目にあわせたいでしょ?怖い目に・・・って事はねぇ!アレしかないですよね!

楽しみにお待ち下さいませ!

2017/12/01 (Fri) 09:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: 間違えた!

えみりん様、大丈夫です。

翔子と祥子に比べれば・・・(笑)しかも気付いてないし!
ありがとうございました!10億、当たったら必ずコメント下さい!待ってます!

2017/12/01 (Fri) 09:09 | EDIT | REPLY |   

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