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<side祥一郎>
何年ぶりにこの人に電話をするんだろう。総二郎にもそうだったが、志乃さんは家元夫人の一番弟子だが、俺たちのことを本当に良く面倒みてくれた母親よりも親らしく接してくれた人だった。
だから、俺も総二郎もこの人にだけは色んな話をしてきたと思う。

今も俺が頼れるのはこの人しかいなかった。
総二郎のことを知っているのなら話が早い・・・情報源を志乃さんと言うことにしてもらおう。そして、おそらく心配をかけているだろうから自分の事も報告したかった。

数回のコールで志乃さんは電話に出てくれた。

『もしもし・・・志乃ですけど、あの、祥一郎様ですか?』

「うん、久しぶり・・・志乃さん。元気してる?・・・今は何処?」

『申し訳ありません。今は婦人会の会合でホテルのロビーにおりますけど、少し移動しますわ・・・そのまま待って下さいね』

後ろの方でザワザワと人の声が聞こえる。確かに外出先のようだから後にしようかと思ったけど、今日の夜には総二郎達に話さないといけなかったから時間がなかった。この機会を逃したら・・・そう思って志乃さんが人のいない場所に移動するのを待っていた。


『お待たせしましたわ。祥一郎様、何年ぶりでしょう!今はどうされているんですか?何処にお住まいですの?』

「うん・・・北海道にね、この秋からいるんだよ。医者としてね」

『・・・北海道?祥一郎様が・・・北海道に?』

志乃さんは随分意外そうな声で答えた。思わずクスッと笑ってしまった。西門を出た兄弟が揃ってこんな北国にいるだなんて思わないだろうからね。

「驚かせてごめんね。実は総二郎と同じ場所にいるんだ、つくしの主治医になる予定でね。志乃さんにはこの件で頼みがあるんだけど聞いてくれる?ここまで話して断わられるわけにもいかないんだけどさ」

『まぁ!そうでしたの・・・あぁ、本当に驚いたわ!総二郎様からは一度お電話で聞いてましたけど・・・まさか祥一郎様までご一緒とは思いませんでしたので。それで、どういう事でしょうか?この私に出来ることですか?』

「うん。西門内部にどうしても協力者が欲しくてね・・・」

俺はさっき類から聞いた話を志乃さんに伝えて、西門の動きを教えてくれたのが志乃さんだと言うことに同意して欲しいと頼んだ。
総二郎には類が密かに2人を見守っていたと言うことを悟られたくないと伝えるとクスクス笑っていた。

『総二郎様は昔から何かと花沢様を意識していらしたし、プライドもありますでしょうしね。わかりましたわ。私が実は祥一郎様とは連絡を取っていたと言うことにすれば宜しいのですね?承知しました。それでは本当にこれからは祥一郎様のことも教えていただきましょうかね。ご心配なく!ご両親様には言いませんから』

「ありがとう。まったく世話のかかる兄弟で悪いね。親父達はどう?総二郎のこと・・・まだ許せないみたい?」

『もう必死でいらっしゃいますわ。特に家元は・・・総二郎様がいなくなられてから失ったものの大きさを実感されたんでしょうね。
家元夫人の方はずっと具合が宜しくありませんの。可愛がっておられた孝三郎様がほとんど本邸に戻られなくなってお話しも出来ないだけでなく、総二郎様のことも今になって悔やんでおいでなのではないかしら。千春様も・・・あっ!』

志乃さんが千春の名前を口に出したけど、すぐに言葉を飲み込んだ。
俺が千春も西門も捨てて出て行ったことを知っているから・・・それがために今度は総二郎の婚約者として発表されたわけだ。
彼女が西門で暮らしていることを話していいのかどうか、躊躇ったんだろう。

「志乃さん、千春のことは知ってるからいいよ。彼女は元気かな。総二郎のことはおそらく家に従ってるだけなんだろうけどね。苦しんでいないだろうか。この俺が言えることじゃないんだけどさ」

『お元気かどうかはわかりません。心の方は随分とお疲れじゃないでしょうか・・・時々お可哀想になりますわ』


「そう・・・なんだ。ごめんね、変なこと言わせて」


この後に志乃さんは家元夫人に呼ばれたらしく、電話を切った。
総二郎達の事で電話したのに、切った後に俺の頭に浮かんだのは5年前に見た千春の明るい笑顔だった。


********

<side千春>
ホテルのロビーで婦人会の会合のために集まっていた方達と時間待ちでお茶をいただいていたとき、志乃さんが急に電話を片手に慌てた様子で席を離れたのを見てしまった。
すごくびっくりしているように見えたその表情に、私はその電話の相手が総二郎さんだと思った。だから、そっと席を立って志乃さんの後を付けてみた。

彼女は従業員が使うと思われる通路の方に隠れるようにして話を続けていたから、姿を見られないように彼女からは見えない壁際に立ってその電話の内容を聞いていた。

はしたないことをしている・・・こんな事は絶対にしてはいけないと厳しく躾けられた私だけど、総二郎さんの行方が知りたかったから。全身を研ぎ澄まして志乃さんの言葉に耳を傾けた・・・だけど、その時に聞こえた名前は総二郎さんではなかった!

「・・・北海道?祥一郎様が・・・北海道に?」


祥一郎さん?・・・今、祥一郎さんって言ったの?
それに北海道って聞こえた・・・祥一郎さんが北海道にいるの?


私の心臓がものすごい音で鳴ってる。祥一郎さんの名前を聞いただけなのに、もう一度会るかもしれない・・・そう思うと身体中が熱くなってきた。

私は総二郎さんの婚約者なのに?
志乃さんの次の言葉にを逃すまいと少しずつ身体が動いていくけど、彼女の声も小さくてその後は聞こえなかった。


「千春さん?志乃さんを見なかったかしら?そろそろ会場の準備が出来たようなのだけど」
「え?あぁ、申し訳ありません。私は知りませんわ。それでは私も会場に・・・」

「そうね、何処に行ったのかしら。いつも私の側にいるのにねぇ・・・」

家元夫人に呼ばれたからすぐにその場を離れてしまったけど、その後も私の頭の中には祥一郎さんの顔だけが浮かんでいた。
この時の議題なんて全然覚えてもいない・・・ちらっと志乃さんを見るとむしろ楽しそうに笑っているような気がする。

祥一郎さんの電話の用件はなんだったのかしら。

北海道にいるのなら・・・そこに行けば会えるのならすぐにでも行きたかった。
行ってどうする気なのかと思うけど、私の全身が祥一郎さんを求めているんだわ・・・それを止めることがもう出来なかった。


********


夜遅くなってから玄関のインターホンが鳴った。
つくしが不思議そうに俺を見るから、そのカメラを覗き込んだら雪の中、頭を白くして立っているのは祥一郎だった。

「祥兄だ・・・なんだ?あいつ、今日来るなんて言ってたっけ?」

「祥兄ちゃん?ううん・・・何も聞いてないけど、すぐに入ってもらわないと!雪がすごいんじゃない?」

急いで玄関を開けたら「よっ!」ってお気楽な声で日本酒を片手に持って入ってきた。玄関先で雪を払い落として特に変わった様子もなかったけど、ここで出会ってからは初めての訪問だ。
何かあったんだろうか・・・俺と眼が合ったら少しだけその目が険しくなった。

西門で何かあった?


こういう時の勘って・・・何故か良く当たるんだよな。

「飯食ったのか?少しなら用意できるからさ・・・早く入れよ。長くなるんだろ?」

「まぁな・・・つくしの飯か?久しぶりにもらおうかな」
「馬鹿言え!ほとんどが俺だよ。つくしの腕はまだそこまで回復してないからな」

「・・・それも興味あるな」

どうせろくな話じゃなさそうだ。それなら先に暖まるほうがいい。
俺は祥兄に1人用の鍋の準備をしてやり、つくしは酒の用意をしていた。

リビングで1人待っている祥兄は一体何処を見ているんだろう。じっと窓の外の雪を見ているが、その向こうに違う何かを探しているような気がしていた。


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2017/11/30 (Thu) 13:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは!

そうそう!思い出してくれた?千春よりもヤバいヤツです。
嫌だよね~!私も流石にこの人は嫌だわ~!
でも書いちゃったからなぁ・・・書かなきゃ良かった(笑)

この千春ちゃんが意外なことするんですよ!楽しみにしておいて下さいね!
いやいや、雪だるまになるとかじゃないですからね?

庭の雪だるまが急に一つ増えてたら千春だったとか(笑)

いかん、1人で想像してしまった・・・反省。

2017/11/30 (Thu) 17:02 | EDIT | REPLY |   

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