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plumeria

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今日は総二郎のバイトが珍しく午前中で終わって昼から家にいた。
でも、来週も受験の子がいるからって総二郎が勉強してる。もちろん総二郎の勉強じゃなくて、どうやって教えたらいいのかを研究しているんだけど。
昔は私に教えてくれるのはほとんどが祥兄ちゃんだったから、わかりやすくて助かったけど、たまに総二郎に教えてもらったときには怒られることが怖くて覚えられなかったっけ。

すぐに怒るのよ・・・「なんで、出来ないんだ!」って。
すっごく怖い顔して睨むから教科書もノートも参考書も全然頭に入んなかったわ。それを思い出してクスッと笑ったら総二郎がこっちを見た。

「何だよ、何がおかしいんだ?」
「ううん、ちょっと昔を思いだしたのよ。総二郎が私に教えてくれるときに腕組みして睨むから怖かったなーって。今でもそんなことしてるんじゃないの?いくら男の子でも怖がられるわよ?」

「そんなことしねぇって!いくつ下の子を相手してると思うんだよ。ホントにガキだぜ?高校生なんて」
「そうかなぁ・・・私なんて小学生だったよ?総二郎、自分が家庭教師の先生に厳しいこと言われるからって、私に八つ当たりしてたよね!結構ショックだったのよ?」

「・・・俺がアイツらに捕まってるのにお前だけ遊んでるからだろ?・・・そんな昔のことなんて覚えてねぇよ」

そう言って一休みするってお茶を入れてくれた。もちろん2人分。
たとえ急須で入れるお茶でも総二郎が入れたら何故か美味しくて、飲むとホッとする・・・こんな平日の午後は久しぶりだった。


私は赤ちゃんのためにベビー用の毛糸でマフラーや帽子を編んでいた。
これは自分の腕のリハビリも含めて始めたことだった。棒針は両方の手先を使わないといけないから結構指先の運動になる。どうせなら使えるものの方がいいだろうって思って小さなマフラーにしたんだけど。

「つくし、何やってるんだ?それ・・・赤ん坊の?」

「うん。生まれてくるのは夏前だからいらないんだけど、来年用にしようと思って。何かしないといろんな事考えちゃうからさ」

「・・・俺のは?」

「何言ってるの!手編みのセーターなんて重くて着られないって、いつも言ってた人に編んであげるわけないでしょう?総二郎には桜子が持ってきた服が山ほどあるじゃない。それでいいでしょ?」
「もう子供のことばっかりなわけ?たまには俺の事も構って欲しいんだけど・・・」

そんなことばっかり言って私が動かす手を止めさせて顔を思いっきり近づける・・・眼をジッと見つめられてドキッとしたら、すぐに総二郎が唇を重ねてくる。少し離れたかと思ったらまた・・・角度を変えながら総二郎の舌が私の中で遊んでる。

「ヤベ・・・勉強する気がなくなってきた。向こうに行こうか?」
「ばっ、馬鹿言わないでよっ!こんなに明るいうちから何言ってるの?風邪引くからイヤだ!」

私が赤くなるのを確かめてから鼻の先にチュッとキスして笑ってる。もうっ!って右腕の肘で小突いたら大人しくテーブルに置いたお茶を飲み始めた。
私がぎこちない動きで編んでるから気になるのかもしれないわね。総二郎は長いこと黙って私の作業を見ていた。

「なぁ、男か女かわかんないからその色なわけ?それやってて疲れないか?」

「うん。クリーム色ならどっちでもいいでしょう?長いことやってると腕が痺れてくるから毎日少しずつね」

子供の性別は聞かないことにしていた。それはちゃんと祥兄ちゃんにも引き継がれていたから検診の時に言われたことはない。
「本当に言わなくていいんだな?」って一番始めの時に聞かれから、生まれてきたときに知りたいって答えた。
でも、祥兄ちゃんの様子から少しだけ伝わったような気がする。この子がどっちなのか・・・


「ねぇ、総二郎。もしさ、この子が男の子でも”一郎”って・・・つけなくてもいいよね?」
「・・・え?」

「西門は今まで長男に”一郎”ってつけてたんじゃないの?違うの?」
「さぁな。昔のことまでは知らねぇよ。確かにそんな名前が多いような気もするけど気にしなくていいよ」

私は編み物の手を休めることなく、総二郎の顔も見ずにこの質問をした。
真剣に話したら気分が重くなりそうだったから。彼もこの話を聞き返すこともしなかった。

お互いに西門の影を消せずにいる・・・それだけは確かだ。


**********

<side祥一郎>
ホテルのロビーに出てすぐに1人の女性に目がとまり、茫然とその場に立ち尽くした。見間違いじゃない・・・千春だった。

ついさっき志乃さんに聞いたばかりなのに、何故ここに彼女が現われる?
旭川に用があるわけがない。来たとしたら、総二郎を追ってきたとしか思えなかった。
だけど、単独行動のはず・・・彼女は西門にこの事は伏せているんだから。その意味がわからなかったが、ここで声をかけるべきなのかどうか瞬間迷った。だがこの俺の姿もホテルのロビーという場所では目立ったのかもしれない。

少しフロントに近づいてきた時、彼女の方もピタッと止まった。その視線は真っ直ぐに俺の方に向けられている。
そして被っていた帽子をとり、昔と変わらない美しい顔を俺に見せた。


「祥・・・一郎さん?」

小さな声が聞こえて、俺は頷くしかなかった。
もう二度と会うことはないと思っていた千春。押さえ込んでいた想いが何だったのかを思い知らされた気がする。

彼女が足先を俺の方に向けてゆっくりと近づいてきたが、すぐ向こうには医師会の連中がいたから千春に眼で合図をしてエレベーターに乗るように促した。少し回りを気にしながら、千春も静かにそれに従った。
2日続けて行われるこの会合のために俺はここに部屋をとっていた。取り敢えずそこで話そう・・・その後のことは成り行きに任せるしかないと思った。

エレベーターが開いて2人で乗り込むと、幸いにも他の客は乗ってこなかった。
ドアが音もなく閉まると二人っきりだ。千春は俺の目の前まで来て真っ赤になったその目を見せてきた。

「久しぶりだね。こんなところで会うとは驚いたよ・・・変わってないからすぐに気が付いたけど」

「・・・お言葉はそれだけなの?4年以上・・・苦しんだんです。祥一郎さんにそれがわかりますか?」

何で泣くんだ?
家同士が決めた婚約者で、西門で会っていたときも気持ちなんて確かめ合ったこともないのに。お互いに諦めていたんじゃなかったのか?恋人だとか、愛しているだとかそんな言葉は俺たちの間に存在していたんだろうか。

俺は西門にいた時、彼女のことを「契約」という形の婚約者だと思っていた。万が一結婚した後に愛情が湧けばいいのかもしれない・・・確かに始めはそう思っていたはずだ。

「ここには何で来たの?何か用があったのか?」


「・・・あなたを探したかったの。祥一郎さん・・・」


千春の流した涙が固く握られた彼女の手の中に落ちていった。


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2017/12/11 (Mon) 09:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは~!

お話しのいいところは「そんなバカな!」が書けるところです!
現実にはない事が書ける!それにつきますね(笑)
そして湯水のようにお金を使える(笑)!

よくスマホで高級車とか高級マンションとか高級ホテルとか調べるんですけど
最近「あなたへのオススメ!」って広告に「来年発売のフェラーリ」とか「東京でマンションを買うなら」
とかが出るようになりました。

買えないよっ!F4じゃないんだから!

ちなみに私も若いときには旦那に何枚も手編みセーター編みました・
もう捨ててもいいよって言うけど、それだけは捨てずに持っているようです。

着ないくせにね!(笑)捨てたら呪われるとでも思ってるんだろうか。


2017/12/11 (Mon) 15:49 | EDIT | REPLY |   

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