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類に電話を入れたのはもう日付が翌日になってからだった。
数回のコールで類は電話に出たけど、俺は声が出せなかった。喉の奥に何か詰まっていて上手く声が出ないんだ。
暫くしたら類の方が話し始めた。

『総二郎?今どこ?・・・メール見た?』

穏やかなあいつの声が聞こえる。
今、つくしと一緒にいるのが類だと思うと・・・情けないと言うより、悔しいと言うより、俺という人間は何のために存在してるんだというやりきれない思いでいっぱいだった。


「あぁ、見た・・・産まれたんだな。祥兄のところでか?」

『もちろん。心配しないで、牧野も無事だから。子供は1ヶ月早かったから保育器に入ってるけど問題はないって。男の子だったよ。おめでとう・・・総二郎。牧野、総二郎に似てるって泣いてたよ』

「男か・・・何となくそうじゃないかって思ってたんだ。そうか、つくしも大丈夫なんだな。ありがとう・・・」

可笑しいよな。おめでとうって言う方もありがとうって言う方も、こんなにも悲しい気分で話すなんて。
でも、今の現状を話さなくてはならない。類はスピーカーにするから俺に話せと言ってきた。そこに祥兄もいるからと。

俺はあのスーパーでの出来事を説明して、今は西門本邸で24時間監視状態に置かれていると伝えた。


『牧野を拘束したって?それじゃ俺が牧野を抱えて車に乗り込むときに西門の警護の連中が見てたってこと?くそっ・・・!気が付かなかったな。牧野に夢中だったから』
『お前だったら何とか振り切っただろうと思ってたから不思議だったんだ。なんであっさり捕まったのかと・・・そうか、つくしを楯に取られたんじゃ何も出来ないな』

「それじゃなくてもつくしは腹が痛いって車を降りられなかったんだ。それこそ明日、祥兄のところに行こうと思っていたんだ。俺たちにはもうその子しか希望がなかったから、なんとしても無事に産まれて欲しくてさ」


あまりの偶然の重なりように俺たちは言葉も出なくなった。
腹の痛みが強くなってつくしは外に出たんだろうか。俺を探して?それなのに耐えられなくなって倒れたんだとしたら、どれだけ怖かっただろう。あんな駐車場の真ん中で動けなくなるだなんて・・・どんなに心細かったろう。

祥兄は黙り込んだ俺に西門の様子を聞いてきた。


「さっきまで家元に説教されてた・・・今から先は心を入れ替えて西門のために働けってさ。それで許してやるって言われたよ。こんな大袈裟な捕まえ方したわりにはあっさりしてやがった・・・」

『牧野の事は?子供のことは何も?・・・まさかと思うけど』

「それが西門はつくしの事は何も知らねぇんだ。俺の事だけ夢中だったんだろう・・・薄情なもんだよな。娘のように可愛がっておきながら、いざとなると探しもしないなんてな。俺を捕まえたヤツも不思議とそのことは家元に伝えなかったんだ。だから話してねぇよ」

『知らないのならそのままにしておけ。どうせそのうち知られるんだ。今はまだつくしの事は触れずに大人しくした方がいいだろう。監視が付いているなら尚更だ。総二郎が騒ぎを起こしたら今度こそ本当につくしを見つけて手を出すかもしれない。その警護の人間にとって雇い主は家元だ・・・油断するなよ』



そして俺は類が何故この時期に名寄に来たのかを聞いた。西門に潜入させたSPを通じて千春から上野明日香の情報を得ていたことを。この時ずっと思っていた疑問を類にぶつけた。


「類、お前・・・旭川の病院にSP配置してただろ?そこで定期的につくしの様子も聞いてて、祥兄の病院に転院させるのも先に命令出してただろ?じゃないと医者の対応が早すぎる。それに宅配業者は花沢か?まさかと思うけどつくしの様子の報告受けてたのか?まだあるよな・・・名寄に常に監視でも置いてたのか?」

『あれ?やっぱりバレてたの?心配しなくても総二郎達の生活の内部までは監視してないよ。そうだね・・・常時2人の交代制で不審人物が近寄らないようにしたぐらいかな。何もなければ報告は受けてない。唯一報告があったのは上野明日香が牧野を階段から突き落とそうとしたときかな。それから先は厳重注意で上野明日香を見張らせたら彼女が動いたんだ。総二郎と牧野が出かけたときは俺がヘリで名寄に着いたから全員が俺と一緒にいたんだ・・・ごめん』

類が謝る事なんて何もないのに。
こいつも俺と同じで偶然ってものに悔しがってるんだ。誰か1人でもつくしを見ていればこんな事にはならなかったのにって。


「なぁ・・・つくしはどうしてる?産む時って大変だったか?あいつさ・・・力が上手く入れられないからって気にしてたし。よくわかんないけど安産だったのかな・・・」

その問いには祥兄が答えた。

『類が急に名寄に来るって連絡してきたのに、まさかつくしを抱きかかえて入ってくるとは思わなくてさ。病院に入ってすぐに破水したから、もう産ませるしかなかったんだ。結構興奮してしまって上手くいかなかったから類に助けてもらった。本来はお前がするはずだったけど、つくしの左腕を支えたのは類だ。でも、それは類に怒るなよ?俺が頼んだんだ。そうしないとつくしが落ち着かなかったんだ・・・総二郎、お前を呼び続けて子供に集中出来なかったんだ』

俺がするはずだった役目を・・・類が?やっぱりそうか。
怒るな・・・あぁ、怒らないさ。怒るとしたら自分自身だからな!


「祥兄、子供の様子は?どのくらいの大きさ?元気なんだろ・・・保育器っていつ頃まで入ってんの?」

『子供は45㎝で2150グラム・・・まぁ早産にしてはそこまで問題はないさ。標準だ。どこにも異常はないし元気だからほんの少し入院したら家に帰れるが・・・しばらくは俺がここで預かろうと思う。お前もそれが安心だろう?』

「・・・あぁ、そうだな。俺が・・・いない・・・から」


ここまで話したら胸が詰まってきて声が出なくなった。
涙が出てきて止まらなくなった。こんな・・・写真じゃなくてその子を抱きたくて、抱きたくて・・・つくしを抱き締めたくて堪らなかった。

産んだ後のつくしはどうしてるんだ?泣いてるんじゃないのか・・・怖がって震えてねぇかな。それをいつもみたいに我慢してんじゃねぇか?布団被って声を殺してないか・・・俺以外のヤツがそれを慰めるのか?
それに産まれた子・・・どんだけ小さいんだ?45㎝ってどんなだ?2150グラムって言われてもわかんねぇよ!
実際にこの眼で見ねぇとわかんねぇよ!それを声にして2人にぶつけるわけにもいかなくて必死で泣いていることを隠した。



『総二郎・・・ここからは別の話になる。しっかり聞いてくれないか』

祥兄の真剣な声が聞こえてきた。


**********


「痛い・・・お腹が痛い!はぁっ・・・はぁ・・・!総二郎?総二郎・・・何処にいるの?」

魘されながら眼が覚めたとき、ここが病院の特別室だってわかった。


あぁ、そうか・・・もう、赤ちゃん、産まれてくれたんだった。男の子・・・予想通りの男の子だった。
少ししか見てないけど、総二郎に似てたような気がする。少し切れ長の眼に見えたわ・・・変なの、まだ眼なんて開いてないのに。
ごめんね・・・私が大人しくしなかったから小さいままあなたをこの世に出してしまって・・・でも、元気な声を聞かせてくれたね。

無事に生まれた喜びはもちろんあった。でも・・・すぐに頭の中に浮かんできたのはあの時の光景だった。


総二郎・・・あの時どうして彼女といたの?
何を言われていたの?まさか・・・あの人、西門と繋がってたんじゃないよね?

総二郎のこと、最初から気に入ってたみたいだから、もしかして誘ってたの?でも、それなら総二郎は乗らないよね?
それなのにどうして話を聞いていたの?どうして・・・腕を払い除けなかったの?怒らなかったの?

どうして今・・・ここにいないの?


そんな事を考えていたら涙が止まらなくなった。
何故かわからない。状況は何もわからないのに総二郎が私から離れたんだと直感で感じた。

総二郎、会いに来てよ。赤ちゃん、産まれたんだよ?抱っこは総二郎の仕事だよって言ったでしょ?
抱っこしてくれないと私・・・あの子と一緒に何処かに落ちていきそうだよ。


「総二郎の・・・嘘つき。産むときには絶対に傍にいるって約束したのに」


私達の希望が生まれた日・・・同じぐらいの絶望が私を襲った。



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こんな場面で再び申し訳ございません。次回は1月6日から再開です。
31日・1日は若宗匠総二郎の試練
2日から5日までは「10月の向日葵」番外編です。

絶望感と共に暫くお休みします・・・良いお年を!by西門祥一郎
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2017/12/30 (Sat) 12:29 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは。

そうなのです~💦どんだけ偶然を重ねたら気がすむのかってぐらい不幸が重なったんですよ。
1人ぐらSP残っててよっ!!って思いました?

残ってたら話が進まないので(笑)こんな事になりました!
ごめんねぇっ!!総ちゃん!

一応つくしちゃんがどん底的な場面で年越しとなりましたが、これからは前向きに変化しますので(多分)
もう暫くお付き合い下さいませ!!

年末ですねぇ・・・掃除におせちに・・・ぐったりですわ。
親戚の前でお話し書くわけにもいきませんしね(笑)
1日だけブログからは離れますが、お話しの予約だけはしておきます。

お暇になったら是非!!

みわちゃん様もよいお年を~!!

2017/12/30 (Sat) 16:23 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/30 (Sat) 23:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

涙が止まらん・・・(爆)これは作品として公開したらどうだろうか(笑)
今までで一番笑いました!!ちょっと・・・3枚の御札って・・・!!

いや、これこそ年末に相応しいコメントですよ!マジ笑いました(脇腹痛いって💦)
さとぴょん様、そういちろうとマスターとハシビロコウ・・・忘れられないのね?(笑)

私、そんなに強烈な話し書いたのかしら!確かにハシビロコウを二次に出したのは私ぐらいかも知れないけどさ。

この場面でこのコメント・・・!!

総二郎喜びますわぁ!これで大人しく来年まで待つことでしょう!!


で、祥一郎によく気が付きましたね!!
話が話だけにスルーされると思っていました。
初めは「向日葵出演者一同」にしてたんですけど、やっぱりここは祥兄が一番適任だと思って数分前に変えました。

そうか!年末年始の休診のお知らせも乗せるべきだったか!!
さすがさとぴょん様・・・!!今度から先に相談しよう!!

と、言うことで来年もよろしくお願いします!

2017/12/31 (Sun) 00:26 | EDIT | REPLY |   

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