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類に電話をかけた。多分つくしと一緒にいるだろうから・・・あいつの事だ、暫く東京に帰る気にはならないだろう。
それはそれで気にはなるが、今の状態では1人でも多くの人間につくしを支えてやって欲しかった。

電話は数回コールして、類の声が聞こえた。

『もしもし、総二郎?』
「あぁ、類・・・悪ぃ。そこにつくし、いるかな』

『隣にいるよ。代わるね・・・』

隣にいる・・・すぐにつくしの声が俺に届くかと思うと何故かドキドキして電話を持つ手が震えた。
何から話せばいい?子供のこと、あの時の事・・・それともこれからのこと・・・俺の頭の中は瞬間真っ白になった。


『もしもし・・・総二郎?』

つくしの声が聞こえた。俺はすぐに声が出なかった・・・あれだけ聞きたかったつくしの声なのに、俺は自分の名前を呼んでくれるその声に答えることが出来なかった。


『総二郎・・・聞こえてる?総二郎?』
「あぁ・・・ごめん、聞こえてるよ。ごめん・・・つくし」

『なんで謝るの?もう全部聞いたよ・・・ごめん、私も総二郎を探しに行ったの。それで総二郎があの人と話しているところを見てしまったのよ。驚いちゃった・・・だから急いで車に戻ろうとしたら急にお腹が痛くなってね。大人しく車にいろって言われたのに出てしまったからこんな事に・・・ごめんね』

「・・・そうだったのか。偶然あいつに見つかって、話があるって言われてさ。俺も油断したんだ」

つくしは俺を責めることもなく、自分の不注意だなんて言うけど、そんなわけないんだ。
あのまま車に残っていたら・・・類が素通りしていたら、つくしはあいつらに見つかったかもしれない。見つかったからって乱暴はされないだろうけど、その時の方がショックだったかもしれないし、子供がどうなったかもわからないんだから。


「つくし・・・写真見たよ。ありがとう・・・元気な子供産んでくれて」

『うん、頑張ったよ。総二郎がいなかったけど、みんなに助けてもらってね。まだ保育器だけどなにも問題ないって祥兄ちゃんが言ってた。早産だけど、わりと早く保育器も出られるだろうって・・・だから、だい、じょう・・・ぶだよ』

つくしの声が震えだした。泣いてる・・・堪えきれなくなって泣き出したんだ。

そうだろうな。産まれた子供のこれからってものを今は1人で考えないといけないんだから。
恐怖が多いだろう・・・それを支える俺がこんな所にいるんだから。一番頼りたい人間が傍にいないんだから泣いて当然だよな。


「本当にありがとう。俺も類が送ってくれた写真見て涙出たわ・・・あんまり小さくてさ。この眼で見てぇなぁって思ってたら泣けたよ。そこにいてやれなくて、傍にいてやれなくてごめん・・・産むときには絶対一緒にいてやるって言ったのに約束守れなくてごめんな」

『総二郎が私を置いていったわけじゃないんだから・・・もういいの。だけど、やっぱり・・・怖くて、怖くて・・・あの子と2人だけは怖くてどうしたらいいかわかんなくて・・・総二郎!やっぱり1人じゃ育てていけない・・・怖いよ・・・!』

「・・・つくし、俺は必ずつくしの所に戻るから。それまで頑張ってくれよ。今はまだ俺もここから動けないけど、祥兄からある提案をされてる。俺はそれを受けようと思ってる・・・聞いてくれるか?」


すすり泣きを続けるつくしに祥兄から出された話を聞かせるとつくしの涙が止まったようだ。


「・・・いいか?それまでは子供と一緒にそこで待っていてくれ。絶対に帰るから・・・お前に全部その子のこと任せたりはしない。初めだけ頑張ってくれ。な・・・つくし、もう一度俺を信じてくれないか?」

『・・・それで祥兄ちゃんは大丈夫なの?そんな事出来るの?』

「祥兄が何ヶ月も悩んで出した提案だ。大丈夫だろう。それとな・・・これは俺も帰ってから知ったんだけど・・・」

俺はさっき家元から聞かされた西門の現状を話した。
多くの後援を失い、多くの弟子も失い、茶会や講演会のキャンセルも相次ぎ西門が相当なダメージを受けていて、このままだと長く続いた西門流の存続そのものが危ういという事を。
それを立て直すためには俺が必要だと、家元に頭を下げられた話をするとつくしも驚いていた。


「俺はそれを言われたからといって、ここに残って大人しく親父の言うことを聞くつもりはない。だけど、やっぱりこの家で産まれ育ったから、西門流が途絶えてしまいそうな現状は辛いんだ・・・ほんの少しだけ26年育った家に恩返ししてから戻ってもいいか?」

『そう・・・なんだ。大変だったんだね。それは私達のせいでもあるんだね・・・・・・わかった。うん、いいよ。総二郎の思うとおりにやってきて。それが全部片付いたら・・・この子のところに戻ってきてくれる?』

「馬鹿だな・・・つくしのところに帰るよ。俺にはもうお前しかいねぇんだから。子供にも見せてやりてぇからな。両親がメチャクチャ仲良いところ。それが俺の夢だから・・・」

『2人で待ってるから。私、頑張ってあの子といつまでも待ってる。それがどのくらいかかるのかわかんないけど』

「そんなに時間はかかんねぇよ。そんなの俺の方が耐えられるか!失ったものはすぐに取り返してやるよ」

相変わらず自分の事より相手のことばっかり・・・そんなつくしは俺の自慢だ。
こいつのためにも時間なんかかけていられない。

つくしの声が俺の中で崩れかけていた気持ちを奮い立たせる。
やっぱり、俺が俺らしく生きるために一番必要なのはつくしの存在だって・・・この時、強く感じたんだ。

「つくし、これから先はあまり電話はかけられない。俺には監視がついてるし、まだ西門はつくしと子どもの事にまで気が付いてない。万が一って事もある・・・お前達を守りたいから今はまだ隠しておきたいんだ。だから、何かあったらメールしてくれ。そうしたら電話は俺からかける・・・ごめんな」

『・・・声が聞きたいって言ってもかけてくれる?それだけでもかけてくれる?』

「あぁ、かけてやるよ。泣きそうな声出すな!お前はいつでも笑ってろ・・・それが一番似合うからさ」


俺も無茶言うよな。
こんな時に笑えだなんて・・・でも、この後つくしは電話口で無理矢理笑ってくれた。

今はそうやって作り笑いでもいいんだ・・・そう思っていたらつくしが子どもの名前について相談があると話を変えてきた。


**********


類から渡されたスマホ・・・この向こうに総二郎がいるんだと思うと心臓が高鳴った。
何を言われるんだろう。もう、帰ることが出来ないって言われたらどうしたらいい?二度と西門を出られないって言われたら・・・。
産まれた子供のこと、どう思ってるだろう。何故無茶をしたんだって怒られたら・・・それよりも、子供に会えないって言われたら私は育てていけるだろうか。

僅かな時間に嫌なことばかり考えてしまう。
花沢類は私にスマホを渡すと、ポンと肩を軽く叩いて部屋を出ていった。

震えながら耳に当てるけど向こうからは何も聞こえてこない・・・総二郎も声が出ないの?一緒・・・だね。

「もしもし・・・総二郎?」

私が話しかけたけど返事がなかった。

「総二郎・・・聞こえてる?総二郎?」
『あぁ・・・ごめん、聞こえてるよ。ごめん・・・つくし』

なんて小さな声・・・総二郎じゃないみたい。
そんなに悲しそうな声で話さないで?総二郎は強いんだから、弱虫な私をもっと引っ張ってくれなきゃ困るじゃない。
必死に涙を堪えて話を続けた。でも、どんどん眼の奥が熱くなっていくのがわかる・・・声だけじゃなくて、総二郎の手の温もりが欲しい・・・冷たくなった私の心を温めて欲しいよ。

「なんで謝るの?もう全部聞いたよ?・・・ごめん、私もね、総二郎を探しに行ったの。総二郎があの人と話しているところ見てしまったのよ。そのあと、急にお腹が痛くなって・・・」
『・・・そうだったのか。偶然あいつに見つかって、話があるって言われてさ。俺も油断したんだ』


そして総二郎が子供のことを言ってくれたとき、我慢できなくて涙が溢れた。

ありがとう・・・そう言ってくれて、何度も傍にいなかったことを謝るの。本当は一言ぐらい怒りたかったけど・・・やっぱり出来ないよ。この子を抱けなかった総二郎のことを思うと胸が張り裂けそうだった。悔しかったのは彼の方だっただろうに・・・。

そのあとにこれからの話、それに西門の話を聞いた。
あの西門がそんな窮地に立たされているなんて・・・総二郎もだろうけど私もショックだった。私だってあの家で育ったんだもの。
厳しかったけど華やかで、伝統ある茶道の名門。そんな西門から多くの人が去って行くなんて想像もしなかった。お家元がどんなに苦しまれているかと思うと自分も苦しかった。

私が自分から迷子になってみんなに心配をかけたときに、父さんのように引っぱたいて叱ってくれたお家元。
言葉は少なかったけど、私を娘のように可愛がって下さったことに嘘はなかったと信じてる。


もちろん総二郎にはすぐに会いたい。会って私達を抱き締めて欲しかった。
だけど、ここで西門を捨ててしまったら、総二郎は多分一生苦しんで生きていかなくてはならないだろう。
だから・・・自分の思うとおりにやってきて欲しいと伝えた。

精一杯の私の強がりだ・・・。



「あのね、総二郎・・・子供の名前、私が付けてもいい?ずっと考えていたの」

『名前?・・・あぁ、もちろん!なんてつけるんだ?』


「蒼(あおい)・・・漢字はね“そう”って読む字だよ。蒼天とか、蒼海とかの。大きな夢を持つ子に育って欲しいから。大地にしっかり根を下ろして強く生きて欲しいって願いを込めてるの」

『蒼・・・草原に例えられる色の名前だな。いい名前だ。ありがとう・・・ホントに俺、何にも出来なかったな!でも、約束するよ。つくしと蒼の所に必ず帰るから。それまで・・・頼んだぞ』



私達の子供は「蒼」・・・どうか、健やかに大きく、幸せに育ちますように。


いつか総二郎が蒼を抱っこして向日葵畑を一緒に歩いてくれる・・・そんな夢を見ていた。



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2018/01/10 (Wed) 00:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは!

電話だけって書いてる方もつまんないですよ。
すっごいストレス(笑)

やっぱり「肌の温度を感じられる距離って大事じゃね?」って事ですよね!
あぁ・・・こんな設定にするんじゃなかった!(笑)

再会まで結構あるのに~!!
どんどん類つくになっていくのが怖いよ~!!


蒼・・・実はそうって読むでしょ?一郎つけたら・・・そういちろう~!!

いや、そういう意味で付けたんじゃないです!ホントよ?

2018/01/10 (Wed) 12:00 | EDIT | REPLY |   

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