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クリスマスイブになって、花沢では例年よりも華やかにパーティーの飾り付けが行われた。正面玄関にはそれまでに飾られていたものではなく、新たに5メートルのクリスマスツリーが置かれてオーナメントも使用人達によって派手に飾られた。

今日はフランスにいる色んな日本企業の家族が招待されていて、その中から将来花沢夫人となる人を探せという意味もあるんだろう、父さんからも積極的に話しかけるようにだなんて子供じみた忠告があった。
そんなものには適当に返事をして、身支度だけ整えて自室に籠もっていた。

牧野はどうしただろう。今日はここに来てくれるよね?返事はくれなかったけど、答えは出てるよね?
それとも俺の独り善がりだった?

マルシェ=ド=ノエルで買ったプレゼントを眼の前に置いて、もし来てくれたら着てもらおうと思ってクリーム色のドレスも用意したんだ。あとは牧野がこのドアをノックしてくれるのを待つだけ。

プレゼントの包みに手を伸ばしたその時、本当にドアがノックされた。慌てて開けたら・・・母さんだった。
ウッドグリーンの大胆なドレスにゴールドのアクセサリーをつけて真っ赤なルージュを引いてる。私がツリーみたいでしょ?なんて笑いながら俺の部屋の中に入ってきた。

「なんだ。母さんか・・・何の用?まだ誰も来てないよね」
「なんなの?その言い方!私で悪かったわね!・・・で、彼女はどうなの?連絡取ってないの?」

「ちゃんと今日来て欲しいって伝えてる。絶対に遅くなっても来るって信じてるんだ」
「それだと良いけど。でも、皆さんがおかしく思うから少しでもいいわ、会場には顔を出しなさい。お父様のことは放っておいて良いわ。私が何とか抑えとくから。類・・・もう少し自信を持ちなさい!眼が死んでるわよ?」

励ましてるのかからかっているのかわかんない母さんは、それだけ言うと魅惑的な背中を見せながら部屋を出ていった。


来て・・・くれるよね?朝から何度この質問を窓の外に向かってしてるんだろう。


そのうち2階大広間の方が騒がしくなってきて、花沢が招待した客が集まってきたようだった。執事が何度も俺を呼びに来る。
その度に「すぐに行くから」を繰り返しながら部屋の椅子から立とうとは思わなかった。

牧野・・・このドレス、着てくれる人を待ってるんだけど。
みっともないかな・・・膝の上にプレゼントを抱えたまま、ただ待ってるなんて。


「類、そろそろお父様も限界だわ。一度顔をお出しなさい。あなたが嫌になるほど沢山のお嬢様達がお待ちなの。一応愛想のいい顔だけは作ってくれるかしら?お願いね」

とうとう呼びに来たのは母さんで、仕方なく一緒に大広間に顔を出した。

わかってはいたけど、そこには日本企業のみならずフランスの企業も集まっていて、女性達は今日のために作ったと思われるゴージャスなドレスで煌びやかだった。
そして俺を見つけると親を引っ張ってきて自己紹介。名前なんか全然覚えようともせずにいつもの営業スマイルで交わすばかりだ。気が付いたら俺のまわりにはそれなりの歳の女性だらけ・・・だけどこの中の誰にも心が騒ぐことはなかった。

話してくる内容も同じなんだ。女性でも世界情勢のことは知っているとばかりに知性を示そうとする人、最近見たオペラや映画などの批評をする人、ブランド品の購入履歴を自慢する人、遊びに行ったリゾート地の話・・・自分の夢を語る人なんていないんだ。
語ったとしてもそれは親に押しつけられた夢だ。そのほとんどが自分の家と会社の繁栄だけ。

「類様はどんな女性がお好みですの?こんな席にエスコートした女性なんて今までいらっしゃらないでしょう?」

そんな事を聞いてどうするんだろうっていつも思う。それが自分じゃなかったらさっさと離れてくれるわけ?

「自分の夢を叶えるために努力する人・・・ですかね。あとは家庭料理、肉じゃがが作れる人が好きです」
「・・・え?肉じゃが?」

少なくてもあなたは作れないだろうね。
目の前の女性ににっこりと笑顔を残してから、また自分の部屋に戻った。

時間はもう10時を回った。うちのパーティーもそろそろ終わる頃だ。


牧野、まだクリスマスイブは終わってないよ?
今、何処で何してるの?あんたのこと・・・俺はまだ待ってるよ?


*********


クリスマスイブは朝からケーキの予約のお客さんでお店は天手古舞いで、パンなんて焼いてる場合じゃなかった。
急に入る注文もあるし、予約もせずに買いに来る人もいるしで朝からひたすらみんなでケーキを焼いた。日本と違って半分以上がブッシュドノエルだから、私はもう何本木の幹の模様を描いたのか数えきれないほどだった。

この日だけはお店も夕方まで開けてて、それこそご飯もろくに食べられなかった。
やっと一息ついたのは午後の2時、これから先は明日のケーキの仕込みに半分、まだまだやってくるお客さんの対応に半分。
当然私はお店でケーキを販売する方に回っていた。

「ツクシ、本当に今日で辞めるのかい?その後はどうするの?ニューイヤーは?」

「さぁ、何をしようかしら。日本に帰るまでそんなに時間もないから最初で最後のフランスの新年を満喫したいわね!まぁ、お金がないから1人で初日の出でも見るわ」

時間があいたときにアランとそんな話をした。今でも彼は気にしているようだけど、私はもう何とも思わなかった。
だって今日、これから自分の夢を叶えるために頑張るんだもん!これが出来たら、もうここで思い残すことはないな。


「ありがとうございました!Joyeuse fête de Noël!」

最後のお客さんを入り口で見送ってから、ドアを閉めてカーテンを引いた。イブの販売は終わった・・・。
はぁ・・・!って大きく息を吐いてから厨房に戻ったら、もう明日の仕込みも終わっていて、みんなで乾杯だけして店を出た。
「今日で終りだって?」職人のおばさんが残念そうに声をかけてくれて、ほんの少しお小遣いをくれた。

「あの!・・・でも、こんなこと・・・」
「いいんだよ、このくらい。半年間だけど楽しかったよ。日本に帰ってもしっかり勉強してまたここにおいで!待ってるよ」

「ありがとうございます!お世話になりました!」

待ってるよ・・・おばさんの言葉はあの日の類を思い出させた。


うん、待っててね。今から頑張るから!
急いでアパートに帰って、私はコックコートを出した。きゅっとリボンを締めて、気合いを入れるために真っ白な帽子もつけた。

そしてあの日、お財布に入っていたお金を全部使って買い揃えた材料でここでケーキを作るの。
類のためにケーキを焼いて、特別に飾りもつけて12時までに持って行く。これがフランスで作る私の最後のケーキだ。

とにかく慎重に、とにかく丁寧に、沢山の愛を込めて大好きな人に贈る、最高のケーキなの。

キッチンが寒かろうが、水が冷たかろうが関係なかった。ただ無心で作って、完成したのはもう11時半・・・!
あと30分でイブが終わってしまう。私は急いでこのケーキを箱に入れて、リボンもかけずに袋に入れて、アパートを飛び出した!
そう、携帯電話なんて持って出るのも忘れていた。


待ってて、待っててね・・・類!私の夢をどうしても受け取って欲しいの!待っててね!

自分の吐く息で前が真っ白になる、そんな夜の道を紙袋を抱えたまま走った!
少しだけ距離が縮むから今日も表通りじゃなくて一本内側の裏道をひたすら走る。でも、ケーキを崩さないようにしないといけないから大変だった!

それでも、私の足は類の自宅を目指した!


*********


あと5分でイブが終わる。牧野はこの時間でも来なかった。思い切って電話をしてみたけど出なかった。

やっぱり本当にもう会わないつもりなの?それなら俺から行くよ・・・あんたのところに。
それでもいいよね。きっと抱き締めたら牧野も気持ちが変わるよ?クリスマスは一緒に過ごそうよ。

俺の夢は、一生牧野と話をすること・・・それを叶えるために、今から俺が動くよ。


牧野に渡すプレゼントを持って俺は自宅を出た。少し走った時、街の大時計が12時を知らせた・・・イブは終わったけどクリスマスは始まったばかりだよ。


俺はまだ人で賑わってるパリの街を、牧野のアパートを目指して走った。


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Comments 4

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2017/12/24 (Sun) 00:44 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/24 (Sun) 06:11 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは!

良くあるパターンですよ(笑)
道をかえるなーーーっ!!ってヤツ。

そして・・・ケーキもって走った結果・・・パリの石畳で何が起きるかと言えば・・・(笑)

明日はこのお話も2話ございます!えへへっ!

2017/12/24 (Sun) 11:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは♥

あはは!本当だ、類君、試作品カットして食べられたのに怒りませんでしたね!
その辺は気が回らなかったなぁ・・・つくしちゃんが食べさせてくれないから無視しちゃったのかな(笑)

ふふふ、どこで会うんでしょうね!
パリの街のど真ん中だとロマンチックですけど・・・上手くいくかしら?

今、子供がパリにいるんですけど、マルシェ=ド=ノエルに行ったそうです。
ホントに可愛いらしいですよ!イルミネーションの写真も送ってくれました。
ヨーロッパのクリスマスはやっぱり宗教的な意味があるんですね。
クレッシュも飾ってあるみたいです。いいなぁ・・・パリ。

あきらきゅん(笑)
頑張れって伝えておきます!!

今日もありがとうございました!

2017/12/24 (Sun) 11:56 | EDIT | REPLY |   

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