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plumeria

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12時をほんの少し回った頃、私は作ったケーキを持って類の自宅前にいた。
まだ人が起きているみたい。でも、どうしようかと悩んでいたら、ガチャッとドアが開いた。ハッとして顔を上げたら、今日は一段と豪華に着飾った類のお母さんがそこに立っていた。そして私を見てニコッと笑ってくれた。

「今晩は。牧野さん、ちょうどね、窓から外を見ていたらあなたが来るのが見えたから。随分遅い時間にいらっしゃったのね。
どうぞ?お入りなさい」

「いいえ、あの・・・これを渡そうと思っただけです。類さんに助けてもらってせっかくレシピも完成してたんですけど、私、お店を辞めたんです。ですから最後に自分の夢の一つを叶えたくて自宅で作りました。ぜひ・・・類さんに食べてもらいたくて。お母さんでいいんです。受け取っていただけませんか?私はここで失礼します」

「あら!それだったら直接類にお渡しなさいな。あの子、ついさっき出て行ったの。何処に行ったのかしら・・・こんなに冷えるのにねぇ!さぁ、牧野さんは中にお入りなさい。実は私、あなたにお話しがあるのよ」

もう私は二度とここに入る事はないと思っていたのに、お母さんに強引に中に入れられた。
少し戸惑った私に気を使って、お母さんは玄関から入ってすぐ横のお客様用ソファーに私と一緒に座った。そして私の作ったケーキの箱を手に持って、それを嬉しそうに見ていた。


「お話しっていうのはね・・・実は悪いとは思ったんだけど、この前あなたが作ったケーキを試食させていただいたの。すごく美味しかったわ。見た目も綺麗だし上品だし。それであなたを花沢の食品関連企業の社員として引き抜こうかと思って・・・どうかしら?やってみない?」

「えっ!私を・・・ですか?とんでもないです!私にはそんな腕はないですから!」

「うちのシェフの高木があなたの腕を認めてるの。これから是非、あなたを指導したいって言ってるわわ。悪い話じゃないでしょう?それに・・・この話を受けたら類が側にいるわよ?」


・・・え?類の側にいてもいいの?
私がお母さんを見上げたら、その綺麗な手で私の荒れた手を包んでくれた。類とそっくりの瞳が少し細く、優しくなった。

「類がね、12時5分前にここを出ていったの。小さな包みを大事そうに抱えてね。そうしたら12時5分過ぎて今度はあなたが袋を抱えてここに来るでしょう?もう可笑しくって!あなた達、不器用なところよく似てるわ。道を一本変えたんじゃないの?
上手に動いてたら12時ちょうどにあなた達はパリの街で出会っていたと思うわ。多分、類は今頃あなたの家にいるんじゃないかしら。・・・どうする?行ってみる?」

「お母さん、ありがとうございます!私、行ってきます!・・・ありがとうございました!」


「Joyeuse fête de Noël!牧野さん!類と出会ったら、どこでもいいから2人でいなさい。夢は簡単に離しちゃダメよ?」


お母さんに頭を下げて、もう一度マフラーをぐるっと巻いて、私は今来た道をもう一度走って戻った!
今度は擦れ違わないように、類がいつも通る道を全速力で走った。


********


クリスマスの真夜中、幸せそうに肩を抱き寄せながら歩いてる恋人達が溢れている。そんなパリの街をただ1人、全速力で走っていた。
走りながら出会ったときのことを思い出したよ。引ったくりに遭って大声で叫びながら追いかけていた牧野に偶然ぶつかったんだよね。あの時はあんたに恋をするとは思わなかったんだ・・・でも、漠然と運命ってもんを感じたんだ。

あの澄んだ瞳が忘れられなかった。
偶然再会して、少しずつ話していって、もっと沢山触れていったら・・・俺の方が離れられなくなってしまった。
また、あんたの味噌汁も肉じゃがもキンピラゴボウも食べたいよ!もちろん苦手だって言わずにケーキも食べるよ!

牧野・・・これからも傍にいて欲しいから、俺はまだ諦めないよ!


そしてアパートに着いたけど、牧野の部屋には電気がついていなかった。

もしかしていないの?何処に行ったの?・・・まさか、アランって男と過ごしてるの?そんなわけ、ないよね?
あの日、カーテンの隙間から見ていたのは間違いなく俺だったよ?

でも、こんな時間に行くところなんて牧野にはないはず。いや、俺が知らないだけ?
いろんな事を考えたけど、結局牧野の行き先の見当もつかなかった。

クリスマスイブに待ってるよって言ったのに、やっぱり選んだのは俺じゃなかったって事なのかな。
それがあんたの希望なら何も言わないけど、心の何処かで絶対に来てくれるって思ってた。ちょっとだけ・・・ショックかな。

俺は牧野の部屋の前に「くるみ割り人形」を置いて、アパートの階段を降りた。


このまま帰る?
いや、今は誰にも会いたくない。1人になりたい・・・俺の足はお気に入りの”あそこ”に向った。


********


急いでアパートに戻ったけど、そこに類の姿はなかった。
アパートの前にも、そのすぐ近くの通りにも、すぐ裏の道にも・・・類の姿はなかった。
また、擦れ違っちゃった?また、私達、道間違えた?そんなのイヤだよ!類はここに来なかったの?

「どうしよう。また会えなかった。これって運命に見放されたってことなのかしら。いや、そもそもこれが運命なのかしら・・・」


せっかくお母さんに教えてもらったのに、私は類に会うことが出来なかった。
仕方なくゆっくりと階段を上がっていくと私の部屋の前にプレゼントのような包みが置いてあった。それは何処かの一流のお店で選んだようなものじゃなくて、露店で買ったときに入れてもらうようなものだった。

「あ・・・これって、あの時のマルシェ=ド=ノエルの?じゃあ、類はやっぱりここに来たんだ!」

私は急いでもう一度階段を駆け下りて、類の自宅の方に走ろうとして足を止めた。


違うわ・・・類は自宅に戻っていない。


類はあそこにいる!間違いない・・・類はあそこで私を待ってるわ!
私は向きを反対に変えて、今度は類が待っている場所に向って走った!


『夢は簡単に離しちゃだめよ?』・・・お母さんの言葉が今の私の頭の中に聞こえていた。



hot-chocolate-1908099__340.jpg
申し訳ございません。
長くなりましたので分割させていただきました。
後半は本日の14:00に・・・本編ラストです!
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2017/12/25 (Mon) 02:25 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは♥

おぉっ!素晴らしいお話し!
その職人さんに是非この話を贈りたいっ!(笑)
いや、だめだめ!ケーキ作りの適当な描写を叱られてしまう!

もしかして、私意外といい話を書いたのかも(笑)!!
いや~ん!嬉しいっ!!(何故自分が嬉しいのかは謎だけど)


そんな呼ばれ方って・・・(笑)
私は「おい」しか呼ばれてないかも・・・?そう言えば名前でなんて呼ばれてないぞ?
私は昔からの旦那のあだ名で今でも呼んでますけどね。
あんまり「お父さん」とか言わないかなぁ・・・。

娘は時々「じいさん」って呼んでる(笑)可哀想に・・・10代から見たらじいさんなんだろうなぁ!

で最後のはなんて羨ましいっ!!
私もね、仕事柄お客さんの運転免許証を確認したりするんですけど、最近いたんですよ!
12月3日生まれがっ!!
「12月3日なんですか?!」って聞いてしまったら「え?何でですか?」って聞き返されて(笑)
思わず「主人と同じですぅ~」って言ったけど、うちの旦那2月生まれでね(笑)
いつの間に結婚したんだ!私!!みたいな・・・。

で、会社の生意気な男が3月30日生まれって聞いてキレました。

は~!面白かった!
さとぴょん様のコメント、お話しみたいだったわ!

ありがとうございました!!

2017/12/25 (Mon) 11:31 | EDIT | REPLY |   

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