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plumeria

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俺が本邸に戻ってきたことは次の日には後援会や各支部には伝えられた。
修行ではないことを知っている後援会役員には深く頭を下げることになり、修行と信じていた人間にはそれなりに留守の詫びを入れた。ただし、修行という言葉は使わない。東京から離れて茶の稽古に励んでいた・・・そういう表現を繰り返した。
そして家元とは特に話すこともなく、昔のように茶室で静かに精進する日々を送った。

問題を起こした考はやはり謹慎処分ということでここにはいなかった。もう家元夫人の助けを受けることも出来ずに長野にある縁の寺に入っているとは聞いたが、そこでの修行というものが順調なのかどうか、それすら聞く気にはならなかった。

そして戻った日に一度会っただけの家元夫人とも、あえて話をする時間は持たないようにした。
これ以上、自分の母親を憎みたくないという思いからだ。
両親には話していないが俺もすでに親という立場にある・・・子供から憎まれるというのは辛すぎるだろうから。

少し面差しが変わった・・・この人といつか解り合えるだろうか。
とても俺1人ではとても無理だろうな。つくしが側にいてくれたら・・・あいつはすべてを許せるヤツだから、一緒にいたらそういう日もいつかは来るかもしれねぇな。

そう思いながら遠目で家元夫人を見ていた。



何日かが過ぎた。俺は毎回つくしの事を思いながら茶を点てた。
向かいに誰も座っていなくても、そこにつくしがいるのだと思い描きながら1人で茶を点てた。

そんな時でも俺を遠くから監視する眼はまだ続いている。家元はまだ完全には信じていないんだと思った。
それぐらい再び俺がこの家を飛び出すことが怖いんだろう。

親としてではなく・・・西門流としてだ。

確かに以前、ここに俺がいた時よりもかなりの仕事が減っている。茶道教室も3分の1は閉鎖され、通ってくる生徒の数も激減。
茶会の予定も例年の半分しかなく、執筆の依頼も随分少なくなっていた。
親父1人ならちょうどいい仕事量かもしれないが、このままだと西門流が廃れていく・・・そう感じさせるのには十分だった。


「総二郎、茶道教室の特別講師を努めてくれんか?お前をこういう形で利用するのは本意ではないし、次期家元になろうかという者が軽々しく講師などするものではないと思うのだがな・・・まずは西門が昔のように戻っているということを世間に知らせたいのだよ」

「承知しました。私で役に立つなら・・・どのような仕事でもお受けしますよ」

俺が行くようになって少しずつ生徒は増えてきた。広告塔として俺はあちこちに借り出され休日なんてものはなかった。
世間を騒がせた西門に俺が戻ったということで多少は報道関係者の訪問もあり、雑誌のインタビューも受けた。
この時ばかりは神経を使った。下手に喋るわけにもいかない・・・このあと、祥兄が計画していることがスムーズに運ばなければ元も子もないんだから。

「弟さんの事件のことは修業先でお知りになったのですか?すぐに戻られなかったのは何故でしょうか?少し噂になっていたんですが、総二郎さんは後を継ぐのがお嫌で家を出られたのだと・・・その辺の真相はお話しいただけませんか?」

「私が家を空けていたのは違う土地で稽古をしていたためです。そしてそこでは一切世間のニュースや事件は耳にしないようにしておりましたので知ったのは随分後です。ご迷惑をお掛け致しました・・・弟も現在は謹慎中の身、精神を鍛え直していると聞いています。私の帰郷が遅れてしまったので、慣れない弟に負担をかけてしまったのかと思いますが許されることではありません。そのせいで西門の関係者の方にもご心配をお掛けしました。私からもお詫び申し上げます」

「それでは、これからも総二郎さんが西門を守っていかれるというのは変わりないと?」

「・・・それは、まだ家元が健在ですので、私はお側で力になりたいと思っております」

そう、次期家元だなんて言葉を使わない。もう・・・使うことはないんだ。


俺はもう少ししたら本当にこの家を出るのだから。


*********


蒼が生まれて数日が過ぎた。もうすぐ6月が来る。
1ヶ月の早産とはいえ順調に成長しているから本当は別荘に戻ってもいいらしいけど、祥兄ちゃんの方が退院を伸ばしていた。
どうやら私が1人で蒼を育てるのが心配らしい。

確かにこの腕は随分良くなったとはいえ、5㎏近くなった蒼をずっと抱いてることも、もちろん片手で抱くことも出来ない。
細かい作業も失敗が多いし、時間がかかる・・・蒼の事では急な対応は出来ないのが事実だ。

だから、もう少し診療所にいるように言われて特別室を占領していた。
他に誰か使わないのかと聞いたけど、そんなに出産予定の人はいないらしい。この特別室の他に一般病室が5部屋あるんだけど、それでどうにかできるって祥兄ちゃんは笑っていた。


「つくし、蒼をもう夜も病室に連れてくるからな。新生児室からは卒業だ。だけどまだ様子をみたいからここにいろよ?」

「そうなんだ。わかった・・・本当は私の事が心配なんでしょ?ありがとう、祥兄ちゃん」

「・・・類が仕事で少し東京に戻ってるからな。まぁ、ずっと付いててもらうわけにはいかないけど、誰もいない家に帰すのはまだ気になるんだよ。総二郎も許してくれるだろうし、類が来るまではここにいろ。慣れるまでは人の助けは全部借りるんだ。そうしないと疲れるだけだからな」


確かに花沢類が仕事のために東京に戻ってから、夜一人になるのが少し怖かった。
類は同じ部屋にいても少し離れたソファーベッドに寝ていて私の側にいるわけじゃなかったけど、それでも誰かがそこにいてくれたら安心したっけ・・・。

でも花沢類は忙しい人だ・・・いつまでもここに引き留めておくわけにはいかない。私は強くならなくちゃいけないんだ。


そして夕方には蒼が看護師さんに連れられて私の所にやってきた。
小さな子供用のベッドはちょうど私が横になったら同じ高さになるようになっていた。

「蒼・・・今日からママとここで寝るんだよ?嬉しい?・・・ふふっ!可愛い・・・」

「牧野さん、何かありましたら先生か私達を呼んで下さいね。寝る時は必ず赤ちゃんはこっちのベッドでね?抱っこしすぎて疲れないようにして下さいよ?」

「はい、ありがとうございます」


看護師さんが出ていったら蒼と二人っきり。
抱っこしすぎて疲れるか・・・ううん、疲れたっていいのよ。だって私の大事な子供だもん!総二郎の・・・子供だもん。
抱っこしてあげないと可哀想だよ。

「総二郎にやっぱり似てるよね・・・ほら、この眼の形は総二郎だよ。それに鼻が高いのも総二郎だね・・・あはっ!やっぱり口は私かもしれないなぁ!何だか不思議・・・私達の一部分を引き継ぐんだね。蒼・・・まだ、おめめは見えないのかな?ママは蒼のおめめが大好きだよ!」

「あ~・・・あ、あ~」

「あはは!何か言いたいことがあるの?何だろう・・・早くお話ししたいねぇ。ママは蒼の声が聞きたいよ?」


その時、私の部屋に置いてあった祥兄ちゃんの電話が鳴った。
それは私がスマホを家に置いたままだからって祥兄ちゃんが貸してくれたもの。総二郎が電話はあまりかけられないけど、どうしても声が聞きたくなったらかけてくるって言ったから借りていた。

くすっ・・・蒼の声が聞きたいって思っていたら総二郎がかけてきたのね?
不思議なテレパシーみたいで嬉しかった。


「もしもし、総二郎?・・・今、話せるの?」
『あぁ、今は区民センターの控え室。茶道の見学がしたいっていう連中の前で今から茶を点てるんだ。こんなの初めてでさ!』

「ホントだね・・・でも、一生懸命点てるんだよ?手を抜いたりしちゃダメよ?」
『ばーか!俺がいつそんなことしたよ!いつだって真面目だよ・・・蒼は?寝てる?』

「ふふっ・・・今日からね、私の部屋で一緒に寝るんだよ?そうしてもいいって、さっき祥兄ちゃんに許可もらったの!」
『そうか!順調なんだ・・・でも、許せねぇな。俺がいないのにつくしと寝るなんて・・・』

なんて事いってるんだろうね!自分の子どもなのに・・・少し呆れたけど、それだけ寂しいんだろうから何も言えなかった。
もう少しだけ時間があるって言って、ホントに些細な日常の話をお互いに言い合った。

ちゃんと食べてるか?ちゃんと寝てるか?誰かに相談できてるか?泣いてないか?・・・総二郎の質問は終ることがない。
全部同じ答えしか返せないじゃん・・・「大丈夫だよ、心配しないで?」

それを言いながら流れる涙は気が付かれないようにしないと・・・総二郎が安心して仕事が出来ないから。


『悪い、時間になった・・・つくし、愛してる。もう少し待ってろよ』
「ん・・・、わかってる。待ってるよ。蒼と一緒に」

無音になった電話を横のテーブルに戻しながら、手の甲で涙を拭った。


そして、小さな総二郎に頬ずりするみたいに私は蒼の顔に頬を寄せた。

蒼の肌の温もりが総二郎みたい・・・早く会いたいね。
この言葉だけは声に出せなかった。


「蒼・・・生まれてくれてありがとう。ママの生きる力だよ。傍にいてくれてありがとう・・・」





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2018/01/13 (Sat) 07:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

yukaponn様、おはようございます。

コメントありがとうございます。
お言葉通り頑張ります・・・こんなお話しにお付き合い下さいましてありがとうございます。

もうすぐ終りですが、なんとか最後まで辿り着けたらいいかなと思っています。
明るいお話しに戻さないとね!(笑)

2018/01/13 (Sat) 07:52 | EDIT | REPLY |   
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2018/01/13 (Sat) 20:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

ふふふ、あんまり最後に西門を出る総ちゃんっていないですよね。
大抵のお話しはつくしちゃんが西門に入りますからね。

そういう意味では少し変わったラストかな?って思っています。
完全に離れるのか、離れないのか・・・第3の道ってのも・・・?

総ちゃんのお話を全て呼んでいないけど、このラストは今までないかな?って感じです。
って、期待させるような書き方してるけど、実はそうでもない(笑)

幸せに終りたい・・・(すでに疲れ切った・・・)って思います。

2018/01/14 (Sun) 10:06 | EDIT | REPLY |   

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