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その茶会は7月の中旬に行われることとなった。

普段なら夏の茶会は大掛かりなものは避ける傾向にある。招かれた方が暑さのために茶そのものを楽しむことが難しくなるからだ。しかも午前中に終らせなくてはならない。
それなのにこんなに急いで茶会の席を用意したのは家元の焦りのような気がした。

長い間守ってきた西門流を自分の代で地に落とすわけにはいかない・・・その気持ちがそうさせるのだと思った。


だけど、この後俺はこの人を裏切るわけだ。そう思うとほんの少し罪悪感というものは沸いてくる。
家族よりもこの「西門」を優先させてきた家元・・・父親と感じることがほとんどなかった人だけど、茶人としては尊敬していた。
そんな家元にこの茶会が終ったあと・・・俺はどんな顔をさせるんだろう。稽古を重ねながらその時の様子を想像してしまう。

西門での本当に最後の務め・・・悔いを残さないように、真心を込めて客をもてなそう。それしか考えられなかった。



家元夫人が新しく作った俺の着物を持ってきた。
夏の茶会に相応しいもの・・・ブルーグレーの紋付きの単衣に薄物の絽袴を合わせ、見た目にも涼しげなものだった。

「当日はこれをお召しになってね。特別に作らせておいたのよ・・・いつか夏の茶会があなたの主催で開かれる時のためにと思って。着ていただける日が来て良かったわ」

「・・・ありがとうございます。有り難く使わせていただきます」

俺が戻ってから始めて2人で話したのがこの言葉だったかもしれない。そのぐらい、もうこの人とは距離が開いてしまった。
家元夫人もそれを感じとっていたのだろう、俺の所にわざわざ話をしに来ることなどなく、擦れ違っても会釈をする程度。時々出会う志乃さんがそれを苦笑いで見ていた。

志乃さんだけにはつくしの報告をした。

あまり2人で話し込むところを見せるわけにもいかない。志乃さんが俺たち兄弟と密かに連絡を取り合っていただなんて家元達に知られたら彼女の立場がどうなるか・・・だから、茶室で道具の整理を手伝ってもらうという名目で志乃さんを呼んだときに、子供とつくしの話をした。
つくしの出産の時の話には涙ぐんでいたけど、それでも生まれたのが男だと言うと顔色を変えた。

「まぁ・・・男のお子様でしたの?それなら・・・お家元はお喜びになるでしょうにねぇ。本来ならこの家の大事な跡取りではございませんか?」

「つくしがここには戻れないだろう?一生苦しむよ・・・そんな事は出来ない。もっと自由にさせてやりたいんだ。子供の時からこの家で窮屈な生活させてるから。そのうち俺はつくしの所に戻るつもりだからさ、また志乃さんには辛い思いさせるかもしれない。ごめん・・・嫌なことばっかりさせてるよな」

誰が聞いているかわからないから本当に囁くような小さな声で、手は休めずに眼も合わせずに言葉を交わした。


「家元夫人も本当は総二郎様に謝りたいんだと思いますけど、やはり孝三郎様のことも放っておくことは出来ないのだと思いますわ。お家元には内緒で何度か会いに行かれましたもの。お小さいときからの溺愛ぶりは大人になってからも変わらないのでしょうね。それに・・・何となくわかるんですのよ。お家元ご夫婦も家が決めたご結婚でしたから、愛情なんてものは多分生まれなかったんでしょうね。だから全部の愛情が末っ子の孝三郎様に向かわれたのですよ」

「・・・そうかもね。だから俺はそうなりたくないんだよ。つくしと蒼と・・・笑って暮らしたいんだ」

「蒼様とお付けになったの?いいお名前ですこと・・・私はいつかお会いできるかしら?」

「志乃さん、落ち着いたら休暇取ってよ。招待するからさ・・・それがいつになるかわかんないけどね」


悲しげに笑う志乃さんの眼から光るものが落ちた。


**********

<side千春>
総二郎さんが連れ戻されてから1ヶ月、特に大きな騒ぎもなく彼は祥一郎さんの指示通り静かにお茶のお稽古に、色んなお仕事にと励んでおられるように見えた。
私とは一度話をして以来普通に接してくれているから、私もこれまで通り「婚約者」を演じていた。

近寄りすぎず、いかにも家が決めた仲だと思わせるような距離の開いた婚約者の役・・・だけど、それにも気掛りなことはあった。

あれだけ総二郎さんの婚約者として報道されたのに、今度は祥一郎さんの相手として再び報道される。これを世間はどう見るだろう・・・家に振り回される可哀想な女だと思われるのならばいいけど、伝統ある西門の兄弟に二股かけたような女だと噂されたら祥一郎さんに迷惑をかけないだろうかと心配だった。

今度、大きな茶会が開かれ、その後に総二郎さんとお家元が会見を開くと聞いた。
そこで総二郎さんは計画通り動くはず。その時、私は狼狽えずに西門への誠意をみせるしかない。それが自分のためであり、この計画を予定通り終らせる為には必要だと思った。



今日も総二郎さんのお茶室を遠くから眺める。

なんて美しい所作なんだろう・・・やはり、この人は茶道とは切り離して生きていけないんだろうと思う。
あの表情は遠く離れたつくしさんと子供を想っての顔かしら。

悲しそうにも見えるけど、真剣な瞳の奥に大切なものを守ろうっていう強さを感じるわ。
いつか来る家族揃っての生活を夢見ているのね。私が祥一郎さんの傍に立てる事を夢見ているように・・・。


もうすぐ、きっと・・・夢が叶う。
総二郎さんを見ていたらそう信じられる。

つくしさん・・・あなたはとても幸せ者ね。こんなにも愛されて・・・。

離れることの辛さは誰よりもわかる。私は遠い北の土地で同じように総二郎さんを想っているつくしさんの事を考えていた。
お互いに、愛する人の腕に早く戻れますように・・・と。


*********

<side類>
名寄の別荘で牧野親子と祥兄と俺・・・4人の生活が続いていた。

牧野は蒼の面倒を見ながら食事やそのほかの家事をして、祥兄は総二郎が作った即席の茶室で1人静かに茶を点てたり、医学書に目を通したり。
俺はここに花沢の仕事が見られるネット環境を作っていたから、パソコンと向かい合って仕事をしていた。

みんなで賑やかにって事もなく、それぞれが自分の空間で自分の事だけをするような生活だった。

もちろんこんな生活が続くわけじゃない。俺は毎週一度は東京に戻らなくてはいけなかったし、短期の出張もあってこの別荘を数日離れなきゃいけない時もあった。
祥兄は「俺がいるから心配するな」って言うけど、どうしてもまたここに戻ってきてしまうんだ。
牧野の事が心配なのか、ただ傍で見ておきたいのか・・・自分でもよくわからない感情に困惑しているのは事実だった。


辛くはないのか・・・祥兄は俺にそう言った。

「辛くないわけないでしょ。本当は苦しいけど・・・それでも、見ておきたいんだよ。自分でも病気だって思ってるけどね」

「・・・バカなヤツだな。一生それでいいのか?もう少し自分を大事にしたらいいのに。お前ぐらいの男だったら・・・いや、そうじゃないもんな。お前が望んでるんだから仕方ないか!でも、薬なんてないぞ?」

「あはは!そうだよね!・・・もし、あったとしても飲まないよ」

蒼と一緒に庭に出て、芝生の上に座り込んで空を見上げてる牧野。
遠く離れた総二郎のことを見てるの?それとも・・・蒼に何か話してるの?父親のことでも教えてるの?


その時に例の男から連絡があった。

『何度かあの女を狙って発砲とひき逃げのマネはしたがどうするんだ?まだやってていいのか?・・・今は仙台に逃げてる。そろそろ精神的にもヤバいかも知れねぇぞ?小さなホテルを転々としてるが、ビビって外にも出歩けなくなってるが?』

「まだだよ・・・そのぐらいで終らせないで。俺がいいって言うまでだよ・・・まだ許せないからね」

『何をしたかは知らねぇが、あんたみたいな人間を怒らせるとはな!バカな女だ・・・・・・了解した』


上野明日香・・・仙台だろうが外国だろうが追わせるよ。
命を取らないだけでも有り難く思ってよ・・・もう少し苦しんでもらう。最後はもう一度俺の前に連れて来てもらって、二度と牧野に近づかないようにって言わないとね・・・俺を怒らせた事を後悔させてあげるよ。


「類、何かあったのか?今の電話・・・なんだ?」

「何でもないよ。祥兄が気にするほどのことじゃない。ゲームだよ・・・逃げられるかどうかのね」


俺は窓越しに牧野が蒼に頬ずりしているのを見ていた。
もう少ししたら再び動き出す・・・それが、牧野に笑顔を戻してくれるかどうか、俺も見届けないとね。


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2018/01/16 (Tue) 00:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・おはようございます♥

あはは!千春、最初はえらい嫌われてましたけどねぇ!
その時は「あとでもっと怖いネェちゃんが出てくるんだけど~💦」って思っていましたよ。
明日香ちゃんは・・・類に睨まれてしまったので気の毒ですが悲惨な退場の仕方になります。

怖いよ~類っ!!

最後近くになってきましたが、この会見の所、シスコンで言う「清四郎の酸素ボンベつき再登場の場面」ぐらい
みんなの説明が長くて嫌になってしまった!
あぁ・・・頑張ってくれ~、祥兄ちゃん!

やっと年末に患った顎の治療が終るんです~!!
結構長かったなぁ・・・12月20日からだから約1ヶ月!
痛みに耐えてつくしちゃん誕生日を書いたのが懐かしい・・・(笑)

とある作家さんがインフルにかかって5日熱が出てるそうですよ?
さとぴょん様も気をつけてね?お子さんも風邪とかインフルとかもらわずに
過ごせますように。

2018/01/16 (Tue) 07:55 | EDIT | REPLY |   
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2018/01/16 (Tue) 23:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

それは大変な年末年始でしたねぇ!
で、結局インフルだったのかどうかわかんないって事ですかね?(笑)
今はもう皆様お元気なのかしら?

我が家は今年はインフルになってないですね。
去年は熱の出ないタイプのインフルに私が罹ってしまってねぇ~。
37度もいかなかったのに「インフルです」って言われて5日間会社休んだんですよ。
ずる休み感満載でしたね!

で・・・(笑)
祥兄ちゃんで遊ぶのはやめましょうよ!
彼は私の憧れなんですから!(笑)
そんな格好させられませんって!!

あ、でも祥兄ちゃんの番外編とか書きませんから。
祥兄ちゃんと千春がくっつく場面とか頭から消してるし。

チビ祥とチビ総の話なら可愛いかもしれないけどね!

それでは今日も頑張って・・・ミシンと闘ってきます!

2018/01/17 (Wed) 08:12 | EDIT | REPLY |   

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