FC2ブログ

plumeria

plumeria

6月に家元から茶会の話を聞かされ、梅雨の時期は稽古に集中した。
7月に入ると蒸し暑く小雨が長引き鬱陶しい日が続いた。北海道でも蝦夷梅雨と言って多少じめじめした天気が続くという。

そんな中でつくしは蒼と元気に過ごしているだろうかと考えながら茶会の準備を進めていた。

「総二郎様、今度の茶会でお使いになる茶花はいかが致しましょう・・・いつものように裏庭からご自分でお採りになりますか?」

弟子の1人が茶室の外から聞いてきた。
ここの裏庭には俺が育てていた茶花の畑があったから、自分が亭主を務めるときは必ずそこからその日に使う花を選んでいたんだ。ただ1年近く人任せだったから、この時期の花が綺麗に咲いているかどうか、まだ確かめていなかった。

「そうだな・・・後で見てみよう。でもどちらにしても自分で用意するから手配しなくていい。自然のものをそのまま使えばいいわけだからな」
「畏まりました。花畑は庭師が手入れをしておりましたから、今年も総二郎様がお好きな花が咲いておりましょう」


弟子が立ち去った後庭を見ると、そこに静かに降る小雨・・・それが誰かが流す涙のような気がして胸の奥が痛んだ。



そしてまた数日が過ぎて、茶会の前日の夜・・・俺はつくしに連絡をした。

自室のベッドに寝転がってスマホを耳に当てる。
祥兄はすでに東京に入っている。類も花沢に戻っていればつくしは蒼と2人きりのはずだ。もし、そうなら不安で押し潰されてないかと気になっていた。せめて声だけでも聞かせて安心させてやんなきゃな・・・。

俺の方は柄にもなく緊張してるみたいだ・・・今まであれだけ務めてきたのに?
亭主なんて何度もやってきたのになんで今更こんなに緊張するんだろう。自分でも不思議なぐらい気が高ぶっていた。


『もしもし・・・総二郎?電話、大丈夫なの?』

暫くして聞こえてきたつくしの小さな声・・・もしかしたら蒼が寝てんのかな。

「あぁ、大丈夫だ。蒼・・・寝てんの?」
『うん。今、寝たところ。さっきまで泣いてたの。だから泣き疲れたのかもね』

「そうか・・・今はつくし、1人なのか?」
『花沢類が自分の部屋にいるよ。私達の部屋に類は来ないわ・・・気を使ってるのよ』

類がいる・・・その答えに少し苦笑いだ。
俺の子どもを産んだ後でも類は変わらずにつくしの事を想っている。それは事実だし、俺が傍に行けない状態でその場に踏みとどまっているあいつの本心をほんの少し警戒してしまう。

もちろん類が何かするとは思っていない。でも、それ以上につくしの事を信じているから許せるのかも知れない。


『・・・明日だね。総二郎、あのさ・・・私達のこともあるんだろうけど、やっぱり総二郎には何も考えずにお茶に集中して欲しいって思ってるの。その結果として祥兄ちゃんの計画が上手くいったらいいって思ってる。だけど、総二郎がお茶から遠ざかってしまうのも嫌なの。こんな事言うのはおかしいけど総二郎にはこれからも茶人としての道を歩いて行って欲しい・・・それが本心なのよ』

「心配すんな、俺にはこの道しかねぇよ。ただ・・・この家では最後って事だ。それだけだ・・・お前の所に戻ってもちゃんと自分の気持ちに正直に生きていく。約束するよ」

『それでこそ、私の総二郎だね。いつも通り・・・いつも通りお客様をもてなして差し上げてね』


あぁ、声には出せねぇけどガキの時からお前だけの「俺」だったんだから。
もうこればっかりは変えられねぇよ。例えこんなに離されてても俺の心は前よりももっとお前を求めてるんだってわかるよ。


だから必ずそこに戻ってやる。

「ありがとう・・・なんか落ち着いたよ。俺とした事が少し緊張してさ!震えてるんだよな・・・身体が。ここにつくしがいてくれたら抱き締めてもらって治まると思ったんだけど、そうもいかねぇだろ?だから声が聞きたくなったんだ・・・弱いとこ見せたな」

『弱くなんかない・・・総二郎がいてくれるから私と蒼はここで頑張れるんだよ?でもさ、弱くなってもいいじゃん!その時は蒼のこと思い出して?この子を抱くまでは弱音なんか吐いてられないって思うでしょ?』

「そうだな・・・蒼が待ってるからな。もう少しだけ、お前に任せたぞ・・・つくし」

大丈夫だって・・・1人じゃないからって気丈にも泣き言一つ言わずにつくしは笑ってくれた。
でも本当はすげぇ無理してるはずだ。俺に心配をかけまいと必死で涙を堪えてるはずだから。


*********


総二郎からの電話を切ったあと、私は電話を枕元に置いて蒼を見ていた。

どんどん総二郎に似てくる気がする。

まだ2ヶ月なのにね。目元がそっくりだし、耳の形が似てるの・・・ふふ!親子って変な部分が似るんだね。
そっと柔らかい髪の毛を撫でていたら眼を覚ましてしまった。

「あら、起こしちゃった?ごめんね、蒼・・・抱っこしてあげようか?」
「・・・あ~、あ~」

「大丈夫だよ?ママは泣いてないよ。さっきね・・・蒼のパパから電話だったんだよ?声・・・聞きたかったね」

蒼を抱っこしようとするんだけど、たった2ヶ月で蒼は結構体重が増えていて私の腕では少し不安だった。
だけど抱いてあげられるのは私しかいないんだもの。総二郎の分まで抱き締めてあげないと可哀想・・・ううん、違うかな。
この子を抱いていたら私が総二郎に抱き締められてる気がするのかもね・・・。


「明日はね・・・蒼のパパは大きなお茶会をするんだよ。見てみたいでしょう?・・・いつか見られたらいいねぇ。でも、蒼までお茶に夢中になったらママはどうしたらいいんだろうね。でもね・・・そうなってもいいんだよ?蒼は蒼の好きな道を歩いていいんだからね」
「ん~ま・・・あ~・・・」

「あはは!まだわかんないよねぇ!でもさ、パパのお茶の姿を見たら、きっと蒼も好きになるよ?だって、ママはその姿に一目惚れしたんだもん。格好いいんだよ?」

蒼の小さな手が私の方に向かって伸びる。
その手を掴んだら凄い笑顔をくれるの・・・だから、この手にキスしちゃう。


明日・・・あの人が納得のいくお仕事が出来ますように。

それだけを祈って蒼を抱き締めた。


**********

<side類>
牧野がまだ起きてるみたいだったからお茶でもどうかと思って部屋のドアをノックしようとした時だった。
部屋の中から声がする・・・蒼に話しかけてるんじゃなくて誰かと電話してるみたいだった。

微かに聞こえたその内容・・・

「花沢類が自分の部屋にいるよ。私達の部屋に類は来ないわ・・・気を使ってるのよ」

あぁ・・・総二郎と話してるんだ。珍しいな・・・明日が例の茶会だって言ってたから落ち着かないんだね。
これが牧野が関わらないんならなんの問題もなく、むしろ自信満々に熟すんだろうにね。総二郎でも弱気になることがあるんだ。それに少し驚いた。

それに牧野の一言・・・俺が気を使ってるって?クスッ・・・少し違うよ。
牧野の部屋に行かないのは俺の理性を保つためだよ。あんたの信用を失いたくはないからね・・・そっちが本当の理由だよ。


「・・・総二郎がお茶から遠ざかってしまうのも嫌なの。こんな事、言うのはおかしいけど総二郎にはこれからも茶人としての道を歩いて行って欲しい・・・それが本心なのよ」


うん、本心だよね?
でもさ・・・もっと自分の胸の中の奥を覗いてみなよ。本当はそんなことしたら総二郎が自分から離れていくって思ってるんじゃないの?それでもそんな優しい言葉がかけられるの?・・・それが愛情っていうものなら残酷だよね。

暫く総二郎と話した後に、今度は眼を覚ました蒼とお喋りを始めた。
蒼に総二郎のことを教えてる牧野・・・多分、蒼の中に総二郎の面影を見つけてさ・・・堪んなく切ない顔してるんだろうね。
そんな顔、俺は見ることは出来ない。


ごめんね・・・聞くつもりなんてなかったのに。


でもさ、牧野を寂しい気持ちのまま眠らせたくもないんだよね。
俺は大きく一つ息を吐いて、牧野の部屋をノックした。


「牧野、もし起きてるんならお茶しない?1人で飲むのも味気ないし!」
「あっ!花沢類も起きてたの?うん!私もね、眠れなかったの・・・ホットミルクがいいなぁ!」

「了解!入れてあげるね」


自分に素直じゃないのは牧野だけじゃない。
俺も・・・同じだね。



sunflower-2641806__340.jpg
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/16 (Tue) 14:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは♥

いよいよ・・・です。
なんですが、なんともこの前が長いっ!!
書かなきゃいけないことが多くて会見が中々始まらんっ!って感じです。

早くしないと2月になるよ~💦

お前だけの「俺」(笑)!!
中々ありそうでないセリフ!「俺だけのもの」って言うことはあるけどね!
うんうん!言われてみたーーーっい!!
自分で書いて萌えてるってどんなナルシストなんだ(笑)

ここの類君、結構なMですよね!

苦しめられても幸せ・・・大丈夫か?って聞きたくなるわ。
早く楽にさせてあげよう(笑)

はぁ・・・やっとここまで来た!!今9合目ってとこかしら・・・。
目指せ頂上ーーーっ!!

2018/01/16 (Tue) 16:58 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply