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plumeria

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翌日、随分早くに眼が覚めた。

まだ外が薄暗く、朝日なんて昇ってもいない頃だった。正確に言えばほとんど寝ることが出来なかった。
茶会への緊張というよりも昨日話したつくしの声が忘れられなくて・・・その声が耳の奥で何度も繰り返し俺の名前を呼ぶからだ。

気持ちを切り替えるために少し冷めたいシャワーを浴びて身体を冷ました。

今日・・・集中するのは茶会の方だからな。


祥兄からもメールは来ていた。

<すべて自分にかかっていると思わなくていい。お前はお前の思うように茶を点てればいい。それが結果として表れるから>

いかにも祥兄らしい言葉だ。
でも凄く嬉しかった。俺の思うように・・・名寄では何度も夢を見た。この本邸でもう一度だけ、全神経を集中させて茶を点てたいと。
それが今日だ。俺はこの茶会が終るまでは他のことは何も考えず、無心にならなくてはいけない。



今の季節、茶会は午前中には終らせる。
本来正式な茶事であれば朝茶事といって早朝に行われるのだが、今日は招待客の多い茶会だ。そこまで早朝ではないが早くから始めるからさっそく準備にとりかかった。

打ち水をして路地の熱を取り、訪れる客に涼を感じてもらうことから始まる。
庭の隅々まで気を配り、暑さを消し去らなくてはいけない。

夏のもてなしはすべて涼しさを基本に考える。

だから床の間のしつらえにも工夫を凝らす。涼しさをさそう掛け軸に「涼風颯颯」、花を生けるものは透かし籠を選んだ。
花は白木槿に紫露草、半夏生と金水引・・・どれも裏庭で美しく花を咲かせていた。

釜は出来るだけ小ぶりなものを選び、斬り合わせ風炉で客を少しでも火から遠ざけなくてはならない。もちろんこのような茶会に置いてはエアコンなんてものは使用しない。
ある意味冬の茶会よりも夏の方が難しいとさえ言われているのは、この涼しさの演出なんだ。

今日、俺が使う茶室に1人入って、これらの準備を進めていた。


すべて俺が整えて客を迎えなくてはならない・・・誰も近づけないようにして茶室を仕上げた。


その後は真新しい着物に着替える。
昨日、家元夫人に渡された夏用の着物・・・1人鏡の前で自分を睨むようにして着替えを済ませた。
そこに声をかけてきたのは志乃さんだった。

「総二郎様、本日はこのような大きなお茶会のご亭主を務められますこと、わたくしも嬉しゅうございますわ。少しお着物を確認させていただきましょう。家元夫人からのお指図ですので失礼致しますね」

「あぁ、ありがとうございます。お手数かけますね」

少し芝居がかったセリフに2人で笑った。
そして志乃さんは俺の部屋で着物を手直しするという名目で入ってきた。


「なんて素晴らしいんでしょう・・・つくしさんが見たら泣いて喜びますのに。残念ですわ・・・この場にいないなんて」
「そうかな・・・昨日、電話で少しだけ話したんだ。しっかりやってこいって逆に励まされたよ・・・女ってのは母親になると強いのかな」

「あら!弱いところでも見せられたんですか?ほほ・・・総二郎様らしくないですねぇ!」
「・・・まぁね。でも、この部屋を出たら茶人の西門総二郎に戻るから。心配しないで見ててよ・・・志乃さんだけが証人だからさ」


「はい。しっかりと見させていただきますよ。ご立派にお務め下さいませ。ご成功お祈り申し上げます」

志乃さんが着物の手直しを済ませた後、両手をついて俺に礼をした。


「ありがとう・・・少し1人にさせて下さい」

「畏まりました。そのように皆に伝えます。お時間がきましたら私が呼びに参りますわ・・・それまでどうぞごゆっくり・・・」


***


自室の前の廊下でただ1人、庭を眺めていた。
幼いころから眺めていたこの庭園・・・息苦しいほど整えられた乱れのないこの庭を眺めながら今日の茶会の流れを考えていた。
とにかく、楽しんでもらおう・・・俺の茶を味わってもらおう。

それだけで十分に伝えられるだけの技量があるかどうかはわかんねぇけどな。

それだけを考えて眼を閉じる・・・瞼の裏には名寄の自分で作った茶室が浮かんだ。
まだ大きな腹を抱えたつくしを前に最後にあそこで茶を入れたのは桜の季節か・・・今度は紅葉の季節につくしに茶を点ててやれるかな。そう思うと自然と肩の力が抜けるような気がした。

ほんの少し、ギシッと床を踏む音がしたので眼を開けて横を見たら、そこには千春が立っていた。
志乃さんから言われていただろうに、それでも俺に何か話しでもあるのかと彼女の方に身体を向けて軽く頭を下げた。

「申し訳ございません。精神統一されていると伺いましたのにお邪魔致しました。ごめんなさい・・・」

「宜しいですよ。もう十分にイメージは掴んでおりますから・・・どうかしましたか?」

「あの・・・これを」


千春が差し出したのは守り袋・・・三峯神社のものだった。
日本神話の英雄・日本武尊(ヤマトタケル命)が創建し、弘法大師空海が観音像を安置したとされている三峯神社。
ここが毎月1日に配布する白い「氣守(きまもり)」を俺の手に握らせた。

手に入れるのが中々困難だと聞くが、俺の茶会が決まってからだとこの7月1日に出向いたと言うことか?
この「氣守」には特別な意味が込められている・・・「一に帰るとき」は生命が再生する。
白は再生を意味する色であり、新しいスタートの色とされる。1日にしか配布されないというのはここから来ているらしい。それに心身浄化の意味もある。

自分のためにしか求めてはいけないはずなのに・・・これを俺に渡すことが千春の願いだったと言うんだろうか。

「どうぞ、ご自分が納得できるお茶席をお作りくださいませ」
「ありがとう・・・あなたにもしっかりと見ていただきたいと思っていますから」

もうすぐ偽りの婚約者ではなく、本当に祥兄の婚約者としてこの西門に入るかもしれない千春・・・の家に振り回された彼女にもこの先に幸せが来るようにと願わずにはいられなかった。


何より・・・遠く離れた場所で待つ2人はもちもんのことだけど。



「総二郎様、お時間ですわ」

「わかりました。すぐに参ります」


夏の茶会が始まった。


**********


「流石でしたな・・・やはり総二郎君は戻ってきて正解ですな。あの若さでこのような大きな茶会を無事に終らせ、大物のお客人たちも大満足の様子・・・いや、素晴らしかった」

「長野からきたあの口五月蠅い大老も随分と褒めておいででしたな。珍しいことです・・・それだけ総二郎君がよく精進なさったということでしょうな。誠に良かった・・・一時期この西門もどうなることかと思いましたが、これでひとまず安泰ですな。お家元、良い跡取りがおられても安心ですな!」


「はい・・・皆様にはご心配おかけしました。これからもこの西門を宜しくお願い申し上げます」

茶会は無事に終った。
俺は家元と並んで数多くの後援会役員と各支部長に頭をさげていた。


満足できたかと言われればそうではない。この仕事に完成という言葉はないと思っている。
だから生涯かけて茶道の道を究めようと努力するんだ。それこそ、毎日自分と向き合いながら・・・ただ眼に前の一服にその時のすべてを捧げていくんだと思っている。

とにかく誠心誠意、今日の務めは果たした。
今出来ることは全て出し切った・・・そういう意味では安心した。


これからは茶人としてではなく、1人の男として新しい道を生きる・・・そう決心した。



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2018/01/17 (Wed) 14:44 | EDIT | REPLY |   
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2018/01/17 (Wed) 20:00 | EDIT | REPLY |   
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2018/01/17 (Wed) 20:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

あはは!祥兄ですか?あの格好で出ちゃう?
総二郎がドン引きするよね?「てめぇ、帰れっ!!」っていいそうだ!

記者会見までが少々話がややこしいので説明ばっかりで申し訳ない・・・でも、ここで報告(笑)
現在ラスト辺りを書いてますが、2月頭に突入(笑)1月エンドの目標が無残にも・・・!!
でも、そのぐらい近づいてきましたっ!!

もう少し・・・このイライラももう少しよーーーっ!!

で、この氣守り・・・入手方法読んだらすごかった。
でも、こんなお守りなら持ってみたいなぁ!効力1年って・・・一生だったらいいのにね。
絶対に自分で手に入れて下さいって書いてあったのに・・・ごめんね、総ちゃんにあげちゃったよ。

それでは会見まで少々お待ち下さい。

2018/01/17 (Wed) 22:03 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、今晩は♥

そうですね・・・でも、実はその前段階が結構あるので会見はすぐには始まりません。
少々お待ち下さいませ!

私も実は何か大きな忘れ物(書き忘れ)がありそうな気がして緊張してます(笑)
話が長すぎて実はあれ?って事がありそうで・・・

その時はこっそり教えて下さいね!!(笑)

今日もありがとうございました・・・ドキドキ!

2018/01/17 (Wed) 22:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: なんと

切山椒様・・・今晩は!

そのような大それた者ではございませんよ?(笑)
今までは個人受けです。これからは委託でやる予定でして、自分でサイト持ったりとかは考えていません。
ふふふ、でも楽しいですよ?

うちの子どももこの前の舞台は端役でしたけど、演技が多くて勉強になったって言ってました。

黒鳥は地元でお世話になった教室の発表会にゲストとして出るんですよ。
でも、顔が丸くて子どもみたいだから黒鳥らしくないんです(笑)
全然男性を誘惑しそうにない黒鳥です(笑)


向日葵・・・やっと茶会が終った・・・もうすぐ全部終るかと思うと涙・・・(嬉しくて)

2018/01/17 (Wed) 22:14 | EDIT | REPLY |   

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