FC2ブログ

plumeria

plumeria

「専務・・・そのようなお顔で行くのはおやめ下さいね?前にもお話ししましたが、深い意味合いはございませんから」

森本がそう言うけど、気分がいいはずがない。
1日の業務が終ってせっかく帰ろうって時間からの取引先との会食・・・しかも孫娘付きだよ?見え見えだろう!
花沢がそうじゃなくても、山城の方はその気満々だから日程表に娘の経歴なんて書いてあるんだよ!無視してるけど。

「相手の会長も高齢ですし、長い時間の会食ではないと思いますのでご辛抱下さいね?あくまでも仕事ですから」
「そうだね、俺も仕事じゃなかったら行かないから!」

牧野のことを探さないといけないのに他の女性と会ってられないって!森本には悪いと思うけど、そんな気持ちが前面に出てきて、彼に八つ当たりなんて子ども染みた態度をとってしまった。


それでも時間になれば、森本に急かされるようにホテルの展望レストランに向かった。

そこにはすでに俺以外の全員が揃っていて、テーブルに近づいたら山城の会長たちが席を立って出迎えている。
中央に会長、その右側にいるのは社長夫妻か・・・そして会長の左側にピンク色のドレスを着た孫娘って女性が顔を赤らめて俯いていた。特別美しいというよりは可愛らしい印象の・・・でも、なんの感情も湧かなかった。

「大変遅くなりました。打ち合わせが少し長引きまして・・・」

「いやいや、時間通りですよ。花沢類専務・・・ご子息ですな?帰国して間がないのにご無理を申し上げました」

品の悪い男ではない。だけど、この会社をここまで成長させた初代社長だといってたから、強気で自信家なのかもしれない。
この数年は業績もよく国内でも大幅に経常利益を伸ばしている優良企業とされているけど、世界的にはまだ知られていない会社だ。うちと共同事業することで山城の名前を海外にも広げようって考えてるんだろう。

そして全員が席に着くと俺の斜め前がその女性。
視界に入るから視線を外し続けるわけにもいかない・・・目が合ったときには冷めた営業スマイルを向けた。

「それではうちの者を紹介致しましょう。私が会長の山城浩介と申します。右におりますのが社長の山城浩二、妻の佳枝です。
そして私の左におりますのが浩介の娘の真莉愛と申します。類君の2つ下になるのかな?今が22ですからな」

「・・・そうですか。初めまして、花沢類です」

「あの・・・山城真莉愛と申します。私は随分前から存じ上げてますの・・・大学、同じなんです」

「英徳に通っていらしたんですか?それでは今年ご卒業ですね?おめでとうございます」

感情のない祝いの言葉・・・それが会長には伝わったのかもしれない。少し不機嫌な表情で俺の返事に不満を漏らした。

「おや?そちらとのスケジュール確認の書類に真莉愛の経歴を記載しておりませんでしたかな?まさか見て下さってないと言うことはないでしょうな?現在英徳大学の4年と書いたはずだが」

「それは失礼しましたね。書類は見ましたよ?本日のスケジュールとしてです。それに大変申し訳ないが、これは新しい取引先との会食とだけ聞いております。そちらのご家族の経歴というのは関係ないものと判断し、その部分は詳しく見ておりませんでした」

ハラハラしたように俺を見る花沢の取締役たちにも顔を向けることなく、真っ直ぐに会長の目を見て話した。
多少眉間に皺を寄せられて、小生意気な若造だと言わんばかりの顔を見せられたが会食はそのまま進められた。

うちの役員たちと山城の社長夫妻は食事の間中、今度の共同事業の成功に向けて話が弾んでいるようだけど、フランスにいた俺はその中身はまだ詳しく把握していない。だから、会話は年寄連中に任せて美味くもない料理に手を伸ばしていた。


時々視線を感じる・・・真莉愛って子が俺のことをジッと見ているのがわかるが、なるべく見ないようにして時間が過ぎるのを待っていた。

「もうこんな時間ですか!私はもう歳をとっておりますのでそろそろ帰らねば・・・」
「おや、山城会長・・・もうお帰りですか?少し飲み過ぎましたかな?」

やっと終った?・・・結局俺なんていらなかったんじゃないの?
って席を立とうとした時だった。


「それではここからは若い者同士2人で楽しみなさい。ここの最上階にラウンジがあるだろう?そこの席を予約してあるからね。真莉愛、類君に花沢家の話でも聞いてみてはどうかな?」
「お、お爺さま!そんな急に・・・類様に失礼ですわ!」

「いや、こちらもその予定は聞いておりましたよ?そうだよね?類君」

花沢の営業本部長が俺の方を睨みつけて「言うことを聞け!」と言わんばかりに目で合図を送ってきた。


「わかりました・・・真莉愛さん、少しだけ飲み直しましょうか?」


冗談じゃない・・・なんで初対面の女性と飲み直さなきゃいけないんだ!しかも花沢家の何を話せと言うんだ!
毎度繰り返されるお節介にうんざりしながら、仕方なく真莉愛をエスコートしてラウンジに向かった。


**********


夜の9時40分・・・このくらいになるとすでに身体はくたくたで気力なんてほとんど残っていなかった。
でも、あと少しで今日が終る、また1日が過ぎて少し前に進めたんだって思うようにしてお客さんが帰っていったテーブルを片付けていた。

もう店内のお客さんも常連さんだけになっていて、空いた席が目立ってくる。
この後は女将さんと大将と、普段は深夜バイトの大学生の男の子がいるんだけど、今日はその大学生が風邪をこじらせて休んでいた。


「あぁ!山本さんったら忘れ物してる!困った人だねぇ・・・大事なものじゃないのかねぇ?」
「どうかしたんですか?忘れ物ですか?」

私と一緒にテーブルを片付けていた女将さんが何か茶封筒のようなものを手に持って呟いた。それはさっきまでそこに座っていたお客さんが忘れていったものらしい。中身はわからないけど茶封筒には会社名の記載があった。

「さっきまでここで『明日重要な会議があってこの資料をなくしたら大変だ』って、そんな事言ったばかりなのに!
今からまた会社に戻って、今日は徹夜で仕事しないといけないなんてぼやいてたのに肝心なものをここに忘れてどうするんだろう!気が付くかねぇ・・・電話番号も知らないしねぇ」

「あら、大変じゃないですか!・・・届けましょうか?この会社なら場所はわかりますけど・・・」

「つくしちゃん、行ってくれるかい?大学生の子が休んでるから私達も動けないし・・・ホントにいいの?少し遠いんじゃない?バスで行かなきゃだけど」

「いいですよ。山本さんの方が困ってるでしょうから・・・グレーのコートを着ていた背の高い方でしたよね?あと15分で終りですから行ってきます!」

私がそう言うと女将さんは15分早く終っていいから頼むよって、その茶封筒を私に預けてくれた。
この会社がある所は一流企業が立ち並ぶオフィス街・・・彼の会社もこの近くだったから少し気になった。だけど、フランスにいるはずだし、万が一日本にいても偶然なんてそんなにあるわけないし。

そう思ってバスに乗って山本さんの会社に向かった。
やがて目の前には高層ビルが見えてきて、こんなに遅い時間でもそのオフィスビルにはいくつかの照明が灯っていた。


懐かしいなぁ・・・ホントに東京に戻ってきたんだ・・・って思うよ。

昔はこんな景色もよく見たわ。あいつの会社も彼の会社も美作さんも会社にも行ったもの・・・たった数年しか経ってないから何も変わってない。
彼はフランスの街の中で、こんなビルの中を颯爽と歩いてるんだろうなぁ・・・私みたいに小さな歩道じゃなくてさ。

そんな事を思いながら窓の外を見ていた。


まさかこの後にあんな出来事が起こるとも思わずに・・・。



sun-1913289__340.jpg
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/18 (Thu) 00:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます!

またまた北海道ネタ!阿寒湖じゃないんですから!(笑)
もう、つくしちゃんはね、自分で自分のことをクタクタにさせて何も考えたくない状態・・・なんですよ。
若いときはそれが出来るのかも・・・私はしないけど。

可能なかぎり色んな事から逃げてサボりたい・・・類的発想(笑)昼寝大好き!

このお嬢さんはどんな人でしょうねぇ・・・(笑)
可愛い顔して超意地悪なのか、なんの悪気もなくつくしを傷つける天然なのか!
世界は自分のものだと思って我儘言い放題なのか!

類がぶら下げて出てくるのかどうか・・・(笑)楽しみにしてて下さい!

2018/01/18 (Thu) 10:21 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply