FC2ブログ

plumeria

plumeria

その日、出社すると大慌てでエントランスまで迎えに来たのが秘書の森本。
人目があるから怒鳴らないんだろうけど、いかにも何か言いたそうに半分口を開けて、眉根に皺を寄せて近寄ってきた。おそらく昨日の会食のことだろう。

山城商事からのクレーム・・・真莉愛を相手にしなかったとか自宅まで送り届けなかったとか、もっと言えばホテルに部屋をとってあったのに・・・なんて話が出るのかもね。

「専務、おはようございます!すぐに前田常務の所に行っていただけませんか?本日の業務はその後で結構ですから!」
「前田常務の所に?昨日の事・・・だよね?」

「ご自分でわかっておいでなら結構ですけどね!もう少し上手に出来ないんですか?・・・子どもじゃないんですから!」

そんな意味合いじゃないから行けって言ったのは森本だろう!って言いたかったけど、これも子ども染みた反論だと言われそうだからやめておいた。
専務室にコートや荷物を置いてすぐに行けと急かされるからその足で常務室に向かった。

どちらが役職が上かと言えば俺だったけど、俺は跡取りだという理由からこの職に就いているだけで業績なんてないも同然。今まで花沢のために働いてきた、60歳にもなろうかっていう前田常務にこの場で刃向かうつもりなんかなかった。
常務室でノックをすると常務秘書がドアを開けてくれて中に通された。


「おはようございます。前田常務・・・お話しがあると伺いましたが?」

「おはようございます。わざわざ専務をお呼びだてして申し訳ありませんでしたな・・・君は席を外してくれないか?」
「畏まりました」

自分の秘書を部屋から出すともう俺を専務としてではなく「非常識で甘ったれた跡取りだ」と言わんばかりに睨みつけてきた。
言葉も出さずにソファーを指さし「座れ」と合図をする。この前田常務は父が社長就任した時からの付き合いで何かと経営にも口を挟んでくる人だった。日本本社を実質的に取り仕切っているのもこの人だ。

多分俺がここに赴任するのを誰よりも嫌がっただろう。


「昨日は随分と大人げない態度で相手を怒らせたそうじゃないか?類君・・・もう少し跡取りなら会社の為に動いたらどうだね?」

「何のことでしょう?会食には出席しましたし、仕事の話は役員達が山城社長としていましたよ?私が参加する意味合いは花沢の人間がそこにいること・・・それだけですよね?それなら役目は果たしたと思いますが?」

「・・・なぜお嬢さんのお相手を途中でやめたんだね?1人で帰らせたと会長からお叱りの電話を受けたが?」

「22歳の女性ですよ?それに山城の迎えが来るでしょう?送って帰るようにとの言葉もありませんでしたし、そのような関係でもありませんのでお叱りを受けることすら疑問です。それとも、彼女と私について両親から何か指示でも出ているんでしょうか?私は何も聞いておりませんが?」

あまりにも俺が淡々と話すのが気に入らないのだろう、深い溜息をついて額を指で掻き、呆れた顔を見せた。
何となくわかった・・・山城と何らかの繋がりを持っているのはこの人か。

もしかしたら真莉愛の希望で設けた会食の席の席だった・・・のかも。
今度の取引開始なんて口実。誰かからの情報で俺の帰国を知った真莉愛が山城会長に頼み込んで、それにいい返事をしたのが前田常務だとしたら要注意だ。

「まぁ・・・自分がその歳で専務だからと言って大きな態度に出ないことだね。まだ君についてくるような社員は少ないんだって言うことをよく認識したまえ」

「ご忠告は有り難く聞いておきますよ。それでは自分の仕事に戻りますので・・・失礼します」


常務室を出て自分の部屋に戻ると、すぐに電話をかけた。

「俺・・・調べて欲しいことがある。山城商事の内部事情・・・特に資金の流れについて調査してくれる?もしかしたら妙な動きをしてるかもしれない。頼んだよ・・・藤本」
『了解しました』

俺が花沢に入ってからついている秘書の藤本。
今回はある特別な任務のために俺から離れているけど、俺より少し後に帰国してここの経理部に入っていた。


**********


保育園のお昼過ぎ、園児達と庭で自由時間を過ごしていた。

私はアルバイトだし、若いって事もあって先輩先生からは一番過酷な追いかけっこやかくれんぼっていう体力勝負の遊びの担当だった。これがキツいってもんじゃない!
小さいくせに体当たりでもされたら、私の方が倒されるとこはよくあるの!

その度に子どもから馬鹿にされ、笑われて・・・でも、楽しくて一緒に笑ってグラウンドに座り込んで遊んでいた。
アメリカでほとんど笑わなかった1年間、それを思うとどんなことでも笑えること、そのものが嬉しかった。

だから、保育園ではワンピースなんてとんでもない!着替えとして置いていたジャージ上下にエプロンをして、汚れることなんて気にせずに子ども達と遊んでいた。その時だった・・・。

「何すんだよっ!一樹のばかっ!お前なんか捨てられたくせに!」
「そんな事ないよ!捨てられてなんかないもん!パパがちゃんといるよ!」

「でもママはいねぇんだろ?一樹のことが嫌いになったんだよっ!」

「こらぁっ!!何喧嘩してんのっ!隆太君、どうしてそんな意地悪をいうの?ちゃんと一樹君に謝ろう?何があったの?」

どうやら年中組一番の暴れん坊、隆太君が一樹君にお母さんがいないことを馬鹿にして笑ったから、一樹君が手を出してしまったみたい。2人の言い分を聞いて、仲直りさせて・・・後に引かない感じでこの喧嘩は終ったようだ。

だけどそれから一樹君はみんなの中に入ろうとしなかった。園庭の隅っこに座ったまま動かない。
ショックだったんだろうな・・・お母さんのことだもんね。一番傷ついてるのは一樹君だもんね。


「一樹君、今日はもうみんなとは遊べないの?さっきのこと、許せない?」
「・・・ううん、僕はパパがすごく事にしてくれるからそれでいいの。でも、ママのことを悪く言われるのは嫌なんだ。よくわかんないけど、パパがいつも言うんだ・・・ママのことを嫌いになったらいけないって。パパが仕事しかしなかったからママは怒ったんだって。
だから、ママが出ていったのはパパのせいだからごめんなっていつも言うんだ」

「そう・・・パパは優しい人なんだね」
「うん!今はすごく優しいよ?お休みの日はずっと一緒だよ!だから、寂しくないもん!」


離婚の経緯なんて他人が知らなくていい。
だからそれを聞こうとは思わない・・・人には色んな事情があって別れたり、離れたりするもの。

だけど、こんな小さな子どもにはまだ理解出来ないものね。
私は暫く一樹君と話してから教室に戻った。



そして5時頃になって山本さんがお迎えに来た。
私はアルバイトだから4時半までだったけど、今日は風邪を引いた先生の代わりに少しだけ残っていた。

一樹君に聞いたらいつも5時頃に迎えに来てくれるらしい。だから今まで会ったことがなかったんだ・・・私は一樹君の手をひいて門の所まで連れて行った。

「あぁ!夕方まで牧野さんに連れて来てもらうなんて。本当に昨日からよく会いますね」

「あはは!そうですね。今日は特別ですよ。川田先生が風邪でお休みなので少し残ってるだけで、いつもはもう終ってるんです。今日もこれでお終いです。じゃあね!一樹君・・・また、明日!」
「うん!つくし先生、また明日ね!」

一樹君は元気よく車の助手席に飛び込むようにして乗り込んだ。
山本さんも急いで車を出そうとして運転席のドアを開けたけど、そこで急に私に声を掛けてきた。

「牧野さんはこれから「さくら」ですか?乗って行きますか?」

「いいえ!とんでもない・・・保護者の方に送ってもらうのは禁止されてますから!山本さんは?今日はもうお仕事終ったんですか?」

「いいえ、こんな時間には終りませんよ!これから一樹を実家に送ってからまた会社です。私が動けるときだけこうやって迎えに来るんですよ。片親ですからね・・・出来ることはしてやりたいので。夜になったら実家に迎えに行って自宅に戻るってわけですよ」

「大変ですね・・・でも、もう忘れ物しないようにして下さいね!それでは失礼します。バイバイ、一樹君!」


両手を振って山本さん親子を見送った。
そして私も急いで次のバイトに向かわなきゃ!もう時間ぎりぎりだった!


********


「いらっしゃいませ!何名様ですか?奥のお部屋が空いてますよ?」
「生ビール、お待たせしましたー!追加の注文がありますか?」

今日も保育園の後は居酒屋でバイトをしていた。
本当はもう身体はくたくたで、ビールのジョッキを持つのも怖いぐらい!その原因は・・・精神的ショックってヤツかしら。
あまりにも予期してなかったことが起きちゃったから。

「つくしちゃん、もう10時だよ?キリがいいところで上がりなさい。少し顔色が悪いよ?大丈夫かい?」
「え?本当ですか?寝不足だからかしら・・・昨日、あんまり寝てないんですよ」

「若いからって夜更かししてたら肌に悪いよ?」なんて居酒屋の女将さんに言われて、10時ちょうどに仕事を終えて更衣室に向かった。
その時、電話が鳴った・・・かけてきたのは花沢類だ。


「も、もしもし?どうしたの?」
『牧野?ねぇ・・・今日のバイト終った?』

「うん、今から帰るとこ。今ね、居酒屋で着替えてるとこ」
『そうなんだ。ね・・・どうやって帰るの?まさか歩くの?』

「うん、そうだね。30分ぐらいで着くから大丈夫よ。あ、今朝は服をありがと・・・冷やかされたよ!ワンピースなんて着ないから」

耳にダイレクトに伝わる声になんだか照れてしまう。何を話していいのか迷ってもう一度服のお礼を言ってしまった。


『今から迎えに行くよ。ね、場所を詳しく教えて?そこから動かないで』

は?今から迎えにってここに?って今どこにいるのかわかんないけど、銭湯に行きたいからすぐに帰りたいんだけどっ!
よく聞いたら「さくら」からそんなに離れてない所にいるらしい。場所を教えたら10分ぐらいで着くと言われた。


『絶対に1人で歩かないで!待っててよ?』

そう言われて「さくら」から出てすぐの道で悴む手に息をかけながら待っていた。


どうしてだろう・・・ワクワクしてる。
昨日の事があったから?まさか、今日もそれを望んでる?ううん!ダメだよ・・・まだ、ダメだよ。

花沢類の事が好きでも・・・まだ、時間がそこまで経ってない。
それでもドキドキする自分の心臓は正直だ。


そして彼の車が本当に10分もしないうちに私の目の前に来た。

「お待たせ!牧野・・・乗って?寒かったでしょ?」
「ううん、花沢類からもらったコートだから温かかったよ?手だけが冷たくなっちゃった!」

助手席に乗ってそう言うと、私の両手をそっと自分の手で包んで・・・はぁって息をかけてくれた。


うわぁっ!そ、そんな事されたら今度は全身が熱くなって茹で蛸になっちゃうっ!
思わす手に力が入って震えてしまった!そうしたらクスって笑ってもう一回温めてくれた・・・もう、完全にダメだ。

頑なに「まだダメだ!」って言ってた自分の気持ちがあっけなく花沢類に・・・全部持って行かれちゃう、そんな気がした。


「温まった?」
「うん・・・暑くなった!」

あはは!って笑顔を見せてくれる花沢類。

でも、この一部始終を山本さんが店の前で見ていたなんて知らなかった。



6LKF9KRG.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/27 (Sat) 08:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様、こんにちは。

そうそう、忘れた頃に藤本(笑)
何故今回は森本?って思いませんでした?

実は今回の藤本はひと味違うんですよ~♥ほとんど出てきませんけど(笑)
あの高所恐怖症の藤本でも、悩んでる専務に振り回されてる藤本でもないんですねぇ~。

お邪魔虫の監視です。活躍するかどうかはわかんないけど。

ふふふ・・・お邪魔虫にいい人がいるかしら。
えみりん様、この私ですよ?可愛い爆弾なんてあんまりないんですよ・・・ニヤリ。


私の父は・・・他界してもう8年かなぁ。
まぁ、許してあげるけど、私の結婚記念日に亡くなったんです。
それからは結婚記念日を祝ったことがございません・・・もう祝いなんていらないんだけど(笑)

なぜもう1日頑張らなかったっ!っていつの日か言ってやろうと思っています。

来月・・・雪じゃないといいですね。
今日はありがとうございました。

2018/01/27 (Sat) 11:54 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/29 (Mon) 12:03 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは~!

むしろ・・・って(笑)

ここのつくしちゃん、めっちゃブルーなんですからいきなりは・・・(笑)
お望みかもしれないが・・・類もめっちゃその気だが・・・さとぴょん様もノリノリだが!
こればっかりは片方がイケイケでもねぇ。

そう言いながらすぐにまさかの展開になるのが私(笑)

さぁっ!どうなりますか!!


で、樹君・・・いい人なのかヤバいヤツなのかはまだわかりませんねぇ!
個人的には好きなんだけど。

最後まで出演予定の人ですからどうぞご贔屓に・・・宜しゅう♥

2018/01/29 (Mon) 17:14 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply