FC2ブログ

plumeria

plumeria

次の年、つくしは小学部に入学した。
付き添ったのは俺の両親だった。幼稚舎の時とは違って西門の家元夫妻が付き添ったとなると扱いは全然違う。
他の保護者達は親を亡くしたつくしを引き取ったことを美談としてチヤホヤして、何のことかわかんないつくしは相変わらずキョトンとしていた。

クラス写真はやっぱり桜の木の下。

うちの両親が保護者席の真ん中に立ちにこやかに笑ってる中、つくしは一番端っこで変な顔して写っていた。それを2年生の教室の窓側だった俺は偶然見てしまったんだ。

また、あんな顔して写ってる。でも、今回はうちの親がいるから俺は出ていけねぇけど。
笑えばいいのに・・・お前だけじゃん!そんなブスッとした顔で写ってんの!ブスが余計ブスになるのに・・・。

イライラしながらそれを見て、絶対に出来上がった写真は見ないからな!って思った。


「西門くん、どうかしたの?お外に気になるものでもあるの?」
「・・・別に」

担任がそんなこと言うからみんなが俺を見るじゃん!ジロって睨んだら若いその担任は慌てて背中を向けやがった。
「ばーか!」って司なんかはからかってたけど、類は俺と同じ方向を見ていた。
それもニコッと笑って・・・俺が睨んでも気にすることもなく、こいつはつくしの方を見てたんだ。


その日はつくしだけ早く帰っていた。
明日からは一緒に車で帰るのか・・・それはそれで鬱陶しい。どうせ車の中で喋りまくるんだ。その日にあったこと全部報告しなきゃいけないとでも思ってんのか、言わなくていいことまで全部!絶対そうに決まってる!

しかも、志乃さんでいいのに俺に報告するから面倒くさい。聞く方の身にもなれってんだ!


そんなことを思いながら家に帰ったら、つくしの姿は何処にもなかった。

でも俺は帰ったらすぐに家庭教師が来るし、それが終ったら稽古がある。つくしのことは構っていられないから知らん顔していた。
自分の予定が全部終ってもまだつくしの姿が見当たらなくて、何だか気になって探してしまった。

あいつの行くとこなんて決まってる。表には出ないから裏側の何処か・・・大抵裏庭にいるのにそこにはいなかった。
志乃さんに聞いたらおやつの時間にはちゃんと部屋にいて嬉しそうに桜餅を持っていたらしい。


何処に行ったんだ?
まさか、家の外・・・じゃねぇよな?そう思って離れの廊下を歩いていたら遠くでくしゃみの音が聞こえた!

あのくしゃみの仕方・・・つくしじゃねぇの?

急いで裏庭に行ったけどやっぱり見当たらない。でも確かにこっちの方でくしゃみが・・・。


「くちゅん!」

それは裏庭でもほんの少し高い位置にある場所・・・桜の木が植えてある1番奥の”裏山”って呼んでた所だった。
もう薄暗くなってるのにそんなところで何やってんだ?

俺は急いで走って行った。でも、走って探したって思われるのがイヤで少し手前で足を止めて、息を整えてからゆっくり上がっていった。そしたら・・・桜の木の下でつくしがぼーっと座っていた。

「・・・お前、何やってんだよ」
「総ちゃん・・・どうしたの?よくここがわかったね!ここ、下から見えないでしょ?」

「お前がくしゃみしたからわかったんだよ!バカだな・・・部屋に入れ!風邪引くぞ。学校に入ったばっかなのに休みたいのか?」
「・・・んっとね、お母さんとお父さんにおやつあげてたの」

「・・・は?おじさんとおばさんに?」
「うん、桜餅2個もらったからね。お父さん、これ大好きだったから!」

つくしの手の中には薄紙に包んだ桜餅が2つ・・・それを自分では食べもせず、ここでおじさんとおばさんにあげたと言っていた。

「総ちゃん、この桜の木ね、お父さんがすごく好きだったんだよ?ここに置いておけば取りに来ると思う?蟻さんに食べられたらイヤだから動けなかったの」
「・・・取りに、は・・・来ねぇよ」

「ダメかな。やっぱり、お父さんにはあげられないかなぁ・・・」
「・・・無茶言うなよ。そんなことは俺にだって出来ねぇし。もう帰ろうぜ。晩ご飯に遅れたら志乃さんが怒るから」


「でも・・・これ、お父さんにあげたいんだもん」

そう言われても死んじまった人間になんて渡せねぇよ・・・それこそ自分も死ななきゃ会えねぇんじゃ・・・って、そんな事言ってバカなことされたら堪んないから慌てて口を塞いだ。


つくしは桜の木を見上げて桜餅を差し出すようにしてるけど・・・誰も受け取ってくれねぇよ。
下に置きっぱなしにすりゃ間違いなく蟻が寄ってきて真っ黒になっちまうし。


「あのさ、おじさんのことだからつくしが食べたら、それで自分もわかるんじゃねぇかな・・・美味かったって。もうさ、この世に身体がねぇから代わりに食べてくれる人がいないと・・・その、味ってもんはわかんないんじゃねぇか?それだったらつくしが食えばいいんだよ。おじさんの分もおばさんの分も・・・その方が喜ぶと思うけど」

「そうなの?」
「そうだよ」

「絶対?」
「絶対!ほら!早く食えって!すぐ晩ご飯だから!」

やっとつくしはそこに座ったまま桜餅を自分の口に入れた。
黙って食べて・・・何処見てんのかわかんなくて。俺も黙ってつくしが食うのを見ていたんだ。

そして2個目を口に入れた時、ポロッと涙を流したから慌てて拭いてやろうと・・・でも何も持ってなくてどうしようかと思ってオロオロしてしまった。口はモグモグ動いてるのに涙まで流して・・・何考えてんだ!って思ったけど、急いで拭いてやったのは俺のシャツの袖口だった。

そのぐらいしか思いつかねぇし。

つくしは桜餅を食いながら泣いて、俺のシャツを濡らして、それでも何も言わずに空を見上げて・・・食い終わったらポツンと言ったんだ。


「お父さん、お母さん・・・美味しかった?つくしね、凄く美味しかったよ」


そりゃ良かったな。俺は1人で焦ったよ。



つくしの手を持ってゆっくり坂を下りて母屋に向かっていた。
その時はもう泣いてなくて、くしゃみもしてなくて何だか少し笑っていた。

「総ちゃん、今日ねお写真とったよ」
「知ってるよ。お前、不細工な顔してたじゃん」

「そんな事ないよ?笑ったよ?」
「笑ってねえよ!ブスだったもん」

「じゃあ出来たら見せてあげる!本当に笑ったよ?」
「見せなくていいよ。ずっと見てたから!」

「そうなの?」
「・・・・・・そうだよ」


つくしはその写真を見せに来ることはなかった。
唯一見せた志乃さんには自分の顔が怖いって笑っていたそうだ。だから言っただろ?ブスだったって・・・。

俺には見せられないって自分の部屋に持って行ってそれっきりだった。



**



「蒼、花衣、桜餅出来たよぉ!取りに来てくれる?」

「はーいっ!お母さんの桜餅、大好きーっ!蒼兄ちゃま、大きい方花衣ね?」
「いいよ。じゃあこっちが僕だね」

「どっちも同じ大きさでしょう?ホントに花衣ったら!」


今日は自宅の庭で桜の茶会・・・つくしは3番目の子供が腹ん中でもうすぐ産まれてくる。今度は性別を聞いていて、どうも男らしい。今度は俺が名前を付けるように言われていて毎日考えていた。

つくしが座りやすいように椅子に座っての立礼式。
桜餅を綺麗に皿に並べて4人で座った。


今日もつくしは一番初めに桜の木を見上げて小さく呟く。


「お父さん、お母さん・・・今年も作ったのよ。美味しく出来たから食べてね・・・」


蒼も花衣も気が付いていただろうか。
このテーブルの上に並んだ皿の数が6枚だったのを。



北海道の遅咲きの桜・・・薄桃色の花びらを風に乗せて、二人の所に届けるのかもしれないな。




1sakura7.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/03/02 (Fri) 15:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは。

えみりん様、こんにちは。

爆笑っ!!そんなこともありですか(笑)
まぁ、一年中ありますからねぇ、桜餅。

私も好きでよく1人で小さいパックを買ってそれを会社でお昼ご飯にしてました。
桜の葉っぱは食べる派ですか?私は食べる派なんですけど。

あの塩味が好きでね(笑)
出来たら2つはおじさんとおばさんにあげて欲しかったわ(笑)

あ、そうそう、昨日のご質問ですが・・・

私と娘は全然似ていません。
見た目も「親子?」ってよく言われるし、性格も全然違います。
私より娘の方が逞しくて強いです。多分、ビビることがない・・・(笑)
人見知りもしない、勉強する・・・根性もあると思います。

私が勝つところ・・・手先が器用なのは私ですね。娘は家庭科が評価低かったし(笑)

2018/03/02 (Fri) 17:05 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/03/03 (Sat) 09:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

コメントありがとうございます。

正直言えばこんな純粋な小学1年はいないような気もするんですけどね(笑)
いて欲しいので書いてみましたが・・・。自分の子供は幼い方だったのでこういうことをするタイプだったんですよ。

例えばバレエの発表会でもらったお花が枯れたら捨てるんじゃなくて、お花のお墓を作るような子でした。
え?っと思ったけど子供の純真な気持ちなんだろうと思って何も言わずにさせてやりましたけど。

その子も今では公演の時に「お花贈ろうか?」って聞くと「現金で」って言いますけどね(笑)


クドいようですが、スイカを投げた母も毎日必ず父の仏壇に炊きたてのご飯を供えてるので、それも愛情なんだろうなぁって思っています。

総二郎一家の優しい春のお話し・・・ほんわかしていただけたら嬉しいです。

2018/03/03 (Sat) 20:24 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply