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つくしが高校を卒業して大学に入る頃、俺は夜の街で遊ぶ癖がついていて家になんかいなかった。

今日もつくしの卒業祝いだと言って祝い膳が用意されてたけど、それをすっぽかしてあきらと飲みに行く約束をわざわざ作った。そんな席に俺がいなくたっていいだろうし、最近のつくしをまともに見ることが出来なかったからだ。

少しずつ化粧なんかして色気づきやがって・・・ガキみたいな顔のくせに!そんなことを呟いていたけど、内心はそれにドキドキしていたから。
そんなつくしを優しく見つめる祥兄の笑顔がムカつく。そんなつくしに躊躇いもなく飛びついて褒めちぎる考の姿にイラつく。

俺だけが素直じゃないってわかってるけど認めたくなかった。
あいつがだんだん綺麗になっていくだなんて・・・誰か他の男がそれをつくしに言うんじゃないかって思うと焦るばかりで。


「総ちゃん、今日も出掛けるの?」
「あぁ、新しい店が出来たからあきらと飲みに行くんだよ。別にいいだろ?俺なんかいなくたって。他は全員揃ってんだろ?」

「うん、そうだけど・・・」

こいつの顔を見たら行きにくくなる。だから背中越しに言葉を出して、つくしの顔は見ずに玄関を閉める。もういつからこんなことしてるんだろう。閉めた後は必ずズキッと心に何かが刺さる気がした。



そしてその年の桜の茶会。

つくしは桜色の振り袖で、午後からの野点に出席した。
黒髪を可愛らしく結って同じく桜色の髪飾りで纏めて上品に仕上げてもらって、それを何人かの男が熱っぽい目で見ていた。

少しムッとしたけど表情に出さないようにして自分の茶席に群がる女達に茶を点てた。

うんざりするほど色とりどりに着飾ったこいつら・・・茶会でそんな派手な着物は着るもんじゃないのに、作法ってもんを知らねぇヤツらばっかりでうんざりだ。
誰が何処の令嬢かだなんてほとんど聞くこともなく、俺の意識はつくしの方に向かっていた。

つくしがもしかしたら俺の茶席に来るかもしれない。そしたらこの女達をどうする?あいつの前でも笑顔で話し続けるか?それとも無視してつくしの相手をしてやるか・・・?自分の気持ちを整理しようとしたけどそんな心配はいらなかった。
つくしはチラッと俺の方を見たけど、真っ直ぐ祥兄の茶席に向かったんだ。

あぁ、そういう事か・・・そうか、やっぱりな。
途端に俺はまた嘘っぱちな笑顔を目の前の女達に向けた。


何を話してるかなんてわからないけど、2人とも和やかに笑って向い合ってる。
ただそれだけなのに特別なものを感じてしまう。祥兄の手がつくしに触れると自分の手元に何故か力が入ってしまう。
この女達は俺の手元なんか見ちゃいないから、そこが微かに震えようが気にもしないだろう・・・それでも気取られないようにわざと少し怪しげな視線をこいつらに向けて、自分もあの2人から意識を外した。


「総二郎様!彩花の順番ですわ。もう随分長いこと待っていましたのよ?」
「それは申し訳ないですね。それではどうぞ今からの時間、ここでごゆっくりされて下さいね」

「あら!ダメですわよ!その後は私ですもの、独り占めは許しませんわ」
「大丈夫ですよ、まだ時間はありますから。そのように美しいお顔を歪ませてはせっかくの振り袖が可哀想です。斎藤沙耶香さんでしたよね?今度から私の稽古をお受けになる予定の・・・」

「覚えていて下さったの?嬉しいです!」

覚えてるさ・・・顔と名前だけ。
それが出来なきゃ遊び人にはなれねぇからな。1度覚えた女は忘れない・・・だけどそれは2度と同じ時間を持たないためだ。
稽古をつけなきゃいけないヤツ以外はな。


つくしが軽く礼をして次席の人間と交代した。
その時、俺の茶席をジッと見ていることに気が付いたけど、あえて知らん顔して目の前にいる女に愛想を振りまく。

つくしはしばらくこっちを見てから・・・くるりと向きを変えて静かに屋敷の中に戻っていった。




その日の夕方遅く、もう陽が暮れて薄暗くなった頃のこと。

茶会は随分前に終り、本邸内は野点の片付けも終って静まりかえっていた。
俺もシャワーだけ済ませて自室に籠もり、今日の事を考えていた。

つくしと祥兄・・・やけにいい雰囲気だったな。いつからあんな風に話すようになった?ガキじゃなくて女の顔で・・・まさか、本気って事はねぇよな?俺には関係ないけど。

何だか落ち着かなくて廊下に出たら、つくしの振り袖が奥の方に消えていくのが見えた。
あの奥には祥兄の部屋がある・・・まさか、つくしが祥兄の部屋に行ったのか?そう思って急いで後をつけた。

行ってもおかしくはない。もし、俺の知らない間にそういう関係になっていたとしても不思議じゃない。だけど・・・!


廊下の曲がり角まで来てから1度立ち止まり、少し覗いてみたら・・・つくしの行き先は裏庭だった。


なんだ、祥兄の部屋じゃなかったんだ。
少しホッとして肩の力が抜けた。ドキドキしていた心臓の音が治まって、軽く息を吐くとつくしの向かった先に俺も行ってみた。

薄暗い庭の中を桜色の振り袖が登っていく。
あんな堅苦しいもの早く着替えてしまえばいいのに・・・って思うけど、それを脱がない理由はすぐにわかった。

あの桜の木に見せに行ったんだ。
おじさんとおばさんに見せるために脱がなかったんだ。


それでも草履でなんて危なっかしくて、時々蹌踉けながら進むからこっちの方が気になるっての!

仕方なく俺も靴を履いてそこに向かった。
あっという間に暗くなった庭の奥にはその桜の木が白く浮かび上がって、風が吹く度に舞う数枚の花びらが美しかった。

そこに立つつくしは・・・昼間よりも綺麗だった。



「・・・もう冷えるぞ。家の中に入れ、つくし」

急に後ろから声をかけた俺の事はもう気が付いていたみたいだった。驚くこともなく振り向くこともなく、つくしは桜の木を見上げて少し嬉しそうに笑っていた。

「この着物をね、お母さんに見せてたの。今まで作っていただいた中で一番好きだな・・・綺麗でしょ?」

「着物はな。当たり前だ、一流の職人が作るものしかここにはねぇよ」
「もうっ、そんな意味じゃないのに!総ちゃんったら・・・。でもね、ほら、この袖の下の桜の模様がね・・・」

大振袖を翻して桜の木の下をぐるっと回ろうとして、草履が下草で滑って蹌踉けた!

「あっ・・・!」
「つくしっ・・・!」

慌てて両手で抱きかかえるようにして受け止めて・・・つくしの顔が俺の肩口にぶつかった!
その時香ったこいつのフレグランスにドキッとした。俺の好きなヤツ・・・茶会にはフレグランスはつけないものだけど、こいつは何処かにこっそりつけてたんだろう、これだけ近くで抱き締めたらそれが香ってきて、同時に薄く塗られたネイルにも驚いた。

なんだ・・・もう子供じゃないってことか?
こいつが少しずつ大人の女になってきてる・・・そう思ったら妙な気分になった。


キス・・・してぇな。

でも次の瞬間、バッと俺から離れて真っ赤な顔して「ごめん!」って小さな声で謝った。

「バカだな・・・足元が悪いんだから草履なんかでこんな所に来るなっての!ほら、帰ろうぜ」
「うん・・・でも、降りるの、怖いね」

「・・・仕方ねぇな。ほら!」

片手を差し出すと恥ずかしそうに俺の手の先を掴む。
そんなんじゃまた転けるからって、ギュッと掴み直すと今度は寄り掛かるように近寄ってきた。

その距離・・・お前、どう思ってんだよ。


本邸までの僅かな距離・・・何故かここでつくしに聞いてしまった。

「今日、なんで祥兄の茶席だったんだ?」
「・・・だって、総ちゃんのところ、女の人が多かったんだもん」

「祥兄の所は男ばっかりだったろ。お前、随分見られてたじゃねぇか」
「誰にも何も言われてないよ?そんなの気にしてないもん・・・総ちゃんだって」

「・・・俺は営業だからさ」
「そうなの?でも、凄い笑顔だったよ?・・・私にはそんな顔見せてくれないじゃん」

見せねぇだろう・・・隠してんだから。
そうでもしないと止まらなくなるんだって・・・この気持ち、まだ誰にも気付かれたくねぇし。


遠くなった桜の木から本邸に近いところにまで花びらが舞ってくる。つくしはそれに手を伸ばしてる。

「綺麗・・・桜の花びらって悲しそうに見えるけど、やっぱり綺麗だね」


あぁ、綺麗だ。
そんな花よりもお前の方が何倍も綺麗だ・・・いつの日かそう伝えられたらいいのにな。


風に混じって俺の耳に届いた言葉・・・・・・”素直になれば?”

そう言ったのは桜か?それとも・・・おばさんか?



**



「総二郎・・・蒼は寂しくないかしら。今日で1ヶ月経ったわね。総二郎がいたお部屋・・・もう慣れたかな」
「大丈夫だろ。あそこはここより人が多いし、英徳の方に困ってるかもな。田舎育ちだから」

5月の初め・・・満月の夜につくしと2人で庭の桜を見ていた。

エゾヤマザクラと呼ばれる本州の桜よりも色が鮮やかな桜が満開で、夜でもその紅紫色の花は妖しく鮮やかな色を放っている。
そして風が吹くと同じように花びらを闇の中に舞い散らせる。


「綺麗だね・・・でも、少し悲しいのは昔から同じだね」
「そうだな。桜の時期は短いからな」

「毎年桜の花が咲くと嬉しいのに寂しくなるね。今年は蒼がいないからかな・・・」
「俺はお前がいるから寂しくはないな。今は・・・ちゃんと言えるから」

「え?昔は言えなかったことがあるの?」

「あるさ。桜を見るお前が桜よりも綺麗だって・・・伝えたくても言えなかった頃がある。お前の事をガキって言ってたけど、俺の方がガキだったからさ・・・」


つくしがキョトンとした顔でプッ!と噴き出した。


そんなつくしを抱き寄せて、腹にそっと手を当てた。
新しく宿った俺達の宝・・・11年前は同じように名寄で花見をしたよな・・・ここに蒼がいた頃に。


いくらでも笑っていいさ。


今はもう、こんな俺を見るのはこの桜だけ・・・なんだから。




fin.




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2018/03/04 (Sun) 13:03 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは。

えーっとね、そりゃ蒼は取ってあげる優しいお兄ちゃんでしょう!
いもしない毛虫がいるよ!って言うのは間違いなく蓮です!(笑)
100%総ちゃんを引き継いでいるので、蓮君は素直じゃないかも?で、自分の恋には奥手かも(笑)

だって蒼は早くに恋人を見つけてますもんね!蓮は・・・どうかな?
花衣は嫁に行けなくて晩婚でしょうねぇ(笑)毬莉は類に似て(似て?)独身かも!


いつの日か総ちゃん一家、全員集合の家族写真が桜の木の下で撮れますように・・・♥

今日もコメントありがとうございました。
インフルエンザ、治りました♥

2018/03/04 (Sun) 14:22 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/04 (Sun) 15:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

総ちゃんのエロくないお話しもたまにはいいでしょう?(笑)
こんなに純情な(?)総ちゃんは珍しいかも?

本来の総ちゃんはこのまま部屋にお持ち帰りして帯を解きそうですけどね(笑)
ゆっくりこの総ちゃんから卒業するために最後の番外編は「夏」です・・・。

いつごろ書けるかはわかりませんが、3月中には「向日葵」から抜け出したいと思います。

毎回のコメント本当にありがとうございます。
(ホワイトデーのあの二人・・やっぱりいる?笑)←少しは考えている。マジ短編で(笑)

2018/03/04 (Sun) 22:13 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/04 (Sun) 23:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・爆笑っ!!

何とかする・・・(笑)

2018/03/05 (Mon) 00:04 | EDIT | REPLY |   

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