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保育園の中でどちらかというと一樹君は1人でいることが多かった。
人見知りっていうわけでもないし、大人しいってわけでもない。ただ気が付けば1人で園庭の隅にいることあって、私はそれが気になっていた。
だけど一樹君と話せば山本さんの話になりそうで、それが嫌で悪いんだけど見て見ぬフリをしてしまう。他の保育士が行ってくれるのを横目で見てはホッとした。


今日もそうだった。
他の子が縄飛びやサッカーをしているのに1人で砂場でしゃがみ込んで何かを作ってる。それがどうしても寂しそうに見えて仕方ない。何となく視線を向けていたら先輩保育士に様子を見てくるように言われた。

「牧野先生のことが好きみたいだから話を聞いてやってくれない?でも、あの子のお父さんには気をつけなさいよ?あなたと噂が立ってるし、園長先生に知られたらすぐにやめさせられるわ。前にも別の父子家庭の男性とそういう関係になった保育士がいてね、その時に他の保護者からクレームが来たのよ!」

「クレーム?どうしてですか?独身でしょう?」

「そういう保育士は奥さんがいる男性でも手を出すんじゃないかって・・・ほら、プライドの高い保護者が多い保育園だからさ、保育士の選定もしっかりやれっていうことよ。自分の旦那に手を出されちゃ世間体が・・・ね」

はぁ・・・面倒なのね、保護者との付き合いって。
でも噂が立ってるって言うけど山本さんの一方的なものだもの、私は全然その気はないし。そう言うなら先輩が一樹君の所に行ってくれたらいいのに、って思いながら仕方なく砂場の方に足を向けた。

「一樹君、1人で何してるの?みんな向こうで遊んでるよ?行こうよ!」
「ううん、僕ここで砂遊びしてるからいい。つくし先生、みんなと遊べばいいじゃん」

「え?うーん・・・先生が遊びたいんじゃなくて、一樹君にみんなと遊んでもらいたいなぁって思ったんだよ?嫌なの?」
「・・・今日は嫌だ」

あら、珍しい・・・ホントに拗ねてるんだ。
よく見たら口が尖ってるし、ほっぺたも膨らましてる。面白くないことがあったのかしら・・・でも誰とも喧嘩したような雰囲気じゃなかったけど。

「何かあったの?怒った顔してるよ?先生、お話し聞いてあげようか?」
「・・・聞いてくれてもいいけど、お願い叶えてくれないもん」

「お願い?お願い事があるの?」
「・・・うん、でもパパ、あれからは何も言ってくれないんだ・・・」

「あれからって?」

言ってる意味がよくわからない・・・4歳だから仕方ないけど、それよりもパパって言葉にドキッとする。
一樹君は砂を掻き集める動きを続けながら、視線も自分の作ってる砂山に向けたまま言葉を続けた。


「ママが欲しいんだ・・・僕」

「・・・え?」

「さっきみんながママの作るご飯の話してたんだ。僕んちはばぁばのご飯だから。それが嫌いっ言うんじゃないんだよ?だけどさ、やっぱりママじゃないから・・・話聞いてたら寂しくなるんだ。だから今日は1人でいい」

そうか・・・そうだよね。まだ4歳だもんね。ママがいる事が普通の歳だもんね。
このくらいの歳じゃまだ親の離婚なんて理解も納得も出来ないだろう。私は離婚の経緯も知らないから何も言えないけど、何処かにママがいるって知ってるから尚更戻ってきて欲しいんだろうな・・・。

山本さんは復縁なんて考えないんだろうか。私から山本さんに言えるはずもない言葉だけど。


「この前ね、パパが言ったんだ」
「何を?パパが何を言ったの?」

「一樹は新しいママが欲しいかって!」
「・・・新しいママ?パパにそんな話があるの?」

「わかんない。言われただけだもん。だからね、僕、欲しいって答えたんだ!」
「・・・そう。うん、もしそうなら楽しくなるね、一樹君」

「うん!でもさ・・・その後からは何も言わなくなったの。だから僕、もう一回聞いてもいいのかわかんないんだ。でもさ、パパも寂しいからママが欲しくなったんじゃないかなって思うんだ」

やっと私の方に顔を向けてにっこり笑ってくれたけど、今度は私の方が引き攣っていたかもしれない。


山本さん・・・それって、どういう意味でこの子に話したの?

「先生、この砂の山にトンネル作るから僕の反対側から穴彫ってよ!」
「え?あぁ、はいはい!」

一樹君の言葉で急いで向きを変えて砂山の横から手を出したら・・・ドサッとその砂山が崩れた!

「あ~あ!つくし先生、何やってんの?崩れちゃったじゃん!砂なんだから崩れやすいんだよ?もっと優しく彫らなきゃ!」
「ごめん・・・一樹君」


目の前でぐしゃっと崩れた砂の山・・・これがこの先の生活に見えてしまうのは私の悪い癖だ・・・。


*********

<side真莉愛>
今日は次年度からの研修という名目で山城商事に来ていた。

もちろん働く気なんて全然ない。籍を置くだけで私がここで仕事をする事はない・・・そんなことは幹部達は全員知ってるけどお爺さまからの命令には誰も逆らえないだけ。だから山本という男に会うためだけに足を運んだようなものだった。

「これはこれはお嬢様、会社訪問ですか?春からはこちらで勤務されるとか。熱心なことですなぁ!」
「いえ、社会のことを何も知りませんのでご迷惑かとは思うんですが、少しばかり経験を積んでみようかと思いまして」

「そうですか。これからは女性も企業でどんどん活躍していただかねばいけませんからね。えーと、会長から聞いてるんですが山本を講師にご希望だとか?いきなり営業企画の方からお勉強ですか?」
「お忙しいのに申し訳ございません」

受付で白々しい挨拶を済ませて応接室に向かった。


しばらくしたら怪訝な顔をした山本樹が私の前に現われた。
報告書にあった写真はボケてたからわからなかったけど中々いい男じゃない。もちろん類様には全然敵わないけど、私の遊び相手の男性達よりも格好良いかも。牧野つくしには勿体ないわね。

「すみません、えっと、お嬢さんの研修の講師って聞いたんですがどうして私なんでしょう?秘書課の方がいいのではないですか?私には新人の方を教えるなんてこと、出来ないんですけど・・・」

「山本樹さん、ですよね?実はあなたにお話があって来ましたの。特に研修なんてしていただかなくて結構ですわ。どうぞ、お座りになって?」

「は?はぁ・・・それでは、失礼します」

私がニコッと笑ってあげたのにそれになんの反応もしなかった。
なんて失礼な男なの?まぁ、いいわ・・・この男には動いてもらわなきゃいけないんだから。


「お話しというのは牧野つくしさんの事ですの」
「・・・え?牧野さんの?彼女がどうかしたんですか?」

あら、今度の反応は早かったのね?ふふっ・・・それじゃ、色々と頼みましょうか。


***********


休憩時間にスマホを見たら類からメールが来ていた。
『時間が出来たら電話して』・・・何かあったのかと心配になって急いでかけてみた。

「もしもし、類?どうしたの?何かあった?」
『えっ?ううん、どうしたのさ・・・牧野の声の方が焦ってるよ?そっちこそ何かあった?』

しまった・・・!一樹君と話した内容のことをずっと考えていたから、つい山本さんが何か変な事を彼に言ったんじゃないかって心配してしまった・・・そんなわけないのに。

「ご、ごめん!園児に急病が出て焦ってたの!それだけ・・・うん、それだけなの。で、類の用件は?」
『うん、あのさ、実はね・・・』

類が話してくれた内容は今日の夕食のことだった。ミシュランガイドで三つ星を獲得したお店のオーナーから招待されたので、今日は何も買わずに帰るようにって連絡。

『今日の迎えの車に花沢の専属スタイリストが同乗してるから一緒に部屋に行っていいからメイクとドレス、選んでもらってて?俺が帰って着替えたらすぐに出掛けよう?それを言いたくてさ!』

「うん、わかった。楽しみだね!」
『ね?ドレス買ってて正解でしょ?』

クスクス笑う類に私まで顔がにやけちゃう!
そうだね・・・あなたがいるんだもん。私が悩むことは何もないのよ・・・大丈夫、心配ない。


その日のディナーには類が買ってくれたものの中からターコイズブルーのカクテルドレスを選んでもらった。クリスタルのネックレスを真珠に変えて、耳にもお揃いのピアスを類がつけてくれた。

「素敵だね・・・いつもより大人っぽくてドキッとするよ」
「そう?ふふっ・・・たまにはね!」

少し前までは抵抗があった毛皮のコートを類が羽織らせてくれて、彼の腕をとってマンションを後にした。


ちょっとだけ背伸びした私・・・類の住む世界に少しでも近づきたくて。



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2018/02/21 (Wed) 04:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

kyoro様、おはようございます!

真莉愛ちゃん、動き出しましたねぇ・・・。
すみませんねぇ、心配かけちゃって。
ちょいつくしちゃんが弱い設定なので余計気になりますよね(笑)

そこを類君がグイッと引っ張るんですよっ!グイッと!

何処までも追いかけてくれる類君を楽しんでいただけたらいいな。
でも、もう少し切ない部分はありますので覚悟してて下さい(脅しか!)

毎日ご苦労様です。
私も経験があります・・・うん、大変ですよね。
先が読めないって感じでした。いつまで続くのかなぁって申し訳ないけど思っていました。

何か1つ、ご自分のための時間を持つって大事ですよね。
頑張って下さいね・・!

今日もありがとうございました。

2018/02/21 (Wed) 08:58 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/21 (Wed) 15:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

ん~・・・基本山本って悪い人じゃない設定なんですよ。
不器用な男?みたいな。

気が付いたら真莉愛ちゃんに誘導されてるじゃん!って感じですかねぇ・・・。

そうそう、真莉愛ちゃんの時はダダダダダダダダ!!!!です。

キーボード、次に壊れたらアウトだわ!(1回叩きすぎで壊してるから)

今日もありがとうございました!

2018/02/21 (Wed) 18:34 | EDIT | REPLY |   

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